権太楼噺爆笑十夜初日「猫の災難」

鈴本演芸場で「権太楼噺爆笑十夜」初日を観ました。柳家権太楼師匠は76歳。来年、喜寿になる。芸は衰えず、あの満面の笑みを浮かべての滑稽噺はますます円熟味を増し、まさに爆笑王の名前に相応しい落語界の重鎮だ。昨年後半に病気休演し、今年の正月興行もお休みしたが、その後高座に復帰。ステロイド剤を打っているというのが気がかりだが、高座を拝見する限り、お顔がふっくらした以外は、声にも張りがあるし、お元気そのもの。好きな煙草は断ったというから、体調には十分留意して、いつまでも爆笑高座を聴かせてほしいと願うばかりだ。

今回の10日間のネタ出しは、①猫の災難②火焔太鼓③幾代餅④一人酒盛⑤井戸の茶碗⑥代書屋⑦大工調べ⑧笠碁⑨天狗裁き⑩疝気の虫。この意欲的な姿勢に毎年頭が下がる思いだ。それこそ毎日通いたいくらいだが、スケジュールの関係で、きょうとあすの二日間伺うことにした。開場時刻の16時30分に鈴本に到着したら、すでに早めに開場していて、開演時刻の17時には平日だというのに半分以上の席が埋まっていた。寄席に客足が戻ってきているのが嬉しい。

「反対俥」柳家さん光/太神楽曲芸 鏡味仙志郎・仙成/「悋気の独楽」蝶花楼桃花/「ミステリーな午後」柳家小ゑん/粋曲 柳家小菊/「干物箱」むかし家今松/「だくだく」桃月庵白酒/中入り/漫才 風藤松原/「加賀の千代」春風亭一之輔/紙切り 林家正楽/「猫の災難」柳家権太楼

さん光さん、46歳。ドラム缶を飛び越えるところ、本当に辛そう。仙成さんの五階茶碗の抜き扇、いつもすごいと思う。それと、仙志郎さんの傘の上で金輪を廻すとき、何度もジャンプさせるのもすごいなあ。桃花師匠、お妾さんの猫撫で声にぶりっ子が入っている。おかみさんの「どうせ、権太楼が白粉塗って待っているだろう」も可笑しい。

小ゑん師匠、駄洒落オンパレード。トロ、遠方より来たる。シャコの海岸物語。誰もいないウニ。小菊師匠、寄席スタンダードナンバーへの8番。片手ずつ手と手を合わせて、あぁもったいないと窓の月。今松師匠、親の脛かじる男の歯の白さ。白酒師匠、絵に描いたモノが泥棒によってランクアップするのが愉しい。チャットGPTと書いた掛け軸が円山応挙に、三毛猫がペルシャ猫に、1億2千万円が3億6千万円に。

風藤松原先生、青烈斗でブルーレット。丁髷を拾って育てたら、侍に成長したというのが可笑しい。一之輔師匠、俺は世帯主だ!甚兵衛さんを溺愛する隠居が実に愉しい。正楽師匠、名人芸。相合傘、猫の災難、五月人形。

権太楼師匠の「猫の災難」は、酒飲みだからこそ表現できる熊さんという印象を受けた。もちろん、下戸の噺家さんでも、酔っ払いを表現することに長けている方は大勢いるが、権太楼師匠の高座は「ああ、師匠も本当にお酒が好きなんだなあ」と思わせる説得力がある。

熊さんは酒に意地汚いんだけれど、憎めない、いや、それどころか可愛らしい。そのキャラクターが権太楼師匠と重なって、冒頭の「ああ、飲みてえなあ」の一言から顕われている。それで、兄貴分に嘘をつくつもりはないのに、鯛が丸ごと一匹あるかのように振舞ってしまう。また、兄貴分が買ってきた酒5合を、ほんの少しだけとか、あと半テレツとか、あいつの分だけ残しておこうとか、色々やっているうちに、一升瓶から酒をこぼしてしまって、挙句の果てに全部飲んじゃう。本当だったらだらしないし、許せないが、なんか憎めないのがこの噺の素敵なところだ。

言い訳がきかない。だが、それを「隣の猫が…」と同じ手口を2回も使ってしまう熊さんに面と向かって説教する人はいないだろう。噺が終ったあとを想像するに、「いつものことだ、しょうがねえなあ」と兄貴分はもう一回酒を買ってくるような気がするし、隣のおかみさんも食べ物の余りがあったら、熊さんにお裾分けしてあげるような近所付き合いを続けるように思うのだ。そんな憎めない熊さんなのだと僕は思っている。