月刊少年ワサビ 第166号
月刊少年ワサビに行きました。去年の10月以来、久しぶり。定員も40人に増えて、だいぶコロナ禍前に近づいてきた。それでも満員御礼の盛況で喜ばしい限りだ。毎月三題噺の創作ネタ卸しを自らに課している勉強会を大切にしている柳家わさび師匠の姿には頭が下がる思いだ。
「つる」「托鉢ゾーン」「佐々木政談」の三席。「つる」は前座噺ではあるが、ちゃんと笑いのツボを押さえていると爆笑を生むという模範的な高座だ。オウム返しの八五郎の混乱の極みをデフォルメした表現に師匠の巧さが光る。
「托鉢ゾーン」は先月に選ばれたお題、「抜け道」「断食」「時刻表」で創作された三題噺。自分の家の脇の道が、通勤通学の人たちの駅への近道になっていて、商店街経由で行くよりも数倍早く着くため利用者が多く、その家の住人は人通りが気になって困っている。
そこでその家のおじいちゃんが断食修行僧に扮して、家の前で托鉢している体を取れば、いちいち施しをしなければならなくて人が通るのを諦めるだろうという作戦を取ったが…。
おじいちゃんが時間帯によってどんな人がどれだけ通るかをメモした紙を、偶々見たサラリーマンが時刻表と間違えて混乱に陥る…。
ストーリーの起承転結がしっかりとあり、おじいちゃんのメモの具体的な内容が伏線となって、一つ一つ、それを回収していく面白さが冴えていた。
「佐々木政談」は、四郎吉の人物造型の上手さに尽きる。「こまっしゃくれた」という表現をよく使うが、その言葉以上の適切な表現が見つからないのがもどかしい。小憎たらしくて、生意気なんだけど、よく言えば利発で、可愛らしい、子どもらしいあどけなさもある。特に与力が地位を利用して金に転ぶ体質を、ピシャリと皮肉るところは、天晴れである。
きょうは特別にゲストとして紙切りの林家八楽さんをお迎えしていた。去年、前座修行を終えて、噺家でいうところの二ツ目に昇進し、高座デビューした。ハサミ試しの文金高島田の花嫁や、お客の注文で切った弁慶など、もう十分に独り立ちしたという印象で微笑ましかった。そして、そういう後輩に高座のチャンスを与えるわさび師匠の優しさにも触れたような気がする。