三遊亭萬橘「しの字嫌い」工夫を凝らして、独特の味わいあるトリネタに膨らませる構成力の凄さ

渋谷プレジャープレジャーで「三遊亭兼好・三遊亭萬橘二人会」を観ました。(2022・01・18)

この会のプロデューサーである広瀬和生さんがプログラムに、兼好師匠が圓楽党のエース、萬橘師匠が圓楽党のホープという表現をしていたが、萬橘師匠はもはや「ホープ」以上の存在になりつつあると思う。兼好師匠もその面白さに気づく人が増えてどんどん人気が上がっているが、萬橘師匠もそれに追いつく勢いがあり、いつの日か「圓楽党の両エース」となる日も近いだろう。

萬橘師匠のこの日の二席は「しの字嫌い」と「開帳の雪隠」。

「しの字嫌い」をこれほどまでにトリネタになる大きなネタに膨らませたのには畏れ入った。単純に頑固な飯炊きの清蔵に旦那がギャフンと言わせてやろうと企てるという寄席の15分ネタとは違う。旦那だけでは敵わないので、番頭に知恵を借りるのだが、この清蔵は田舎者だが、頭の回転が速い。

「し」という字を言わない約束をする前に、旦那が問答を仕掛けるところから面白い。両手を叩いて、「右手と左手、どっちが鳴った?」という類の問答に対して、一休さんか佐々木政談の四郎吉か、というレベルで清蔵が逆に旦那をギャフンと言わせてしまうのだ。

それがあってから、再び番頭と旦那が作戦会議をして、「し」という字は縁起が悪いから抜いて言葉を喋ろうと仕掛ける。これもジリジリして、墓穴を掘ってしまう旦那が可笑しい。完全な旦那の負けである。そもそも、頑固なだけで仕事の出来る清蔵に「ごめんなさい」と言わせたいと考える旦那が考え違いだけれどね。

「開帳の雪隠」も、「ぞろぞろ」のような牧歌的な味わいがありつつも、萬橘師匠独特のキレのある笑いが備わっていて、寄席でルーティンのように演じられる「開帳の雪隠」とはテーストが違って愉しい。

駄菓子屋の老夫婦の人物造型が、萬橘落語の魅力にピッタリの型にはまって、他の噺家が演じる「開帳の雪隠」とは違う味を出しているのだとは言えまいか。つまり、大ネタの場合は人物造型に熱心になるけれど、寄席の浅い上がりの小咄の延長のような高座にはそんなに人物造型を考えない人が多い中、萬橘師匠はしっかりとこの老夫婦のキャラクターを描き込んでいるような気がするのである。