三遊亭粋歌「二人の秘密」 現代の風景を切り取る新作派は来春、真打に昇進。二人の先輩が太鼓判を押す実力が花開く。

横浜にぎわい座で「三遊亭粋歌独演会」を観ました。(2020・11・13)

粋歌さんの創る新作は奇抜に感じられないところがいい。もちろん、デフォルメはあるけれど、日常の風景の中を切り取った1コマを描いていて、「そういうことってあるよね」とか、「そういう人っているよね」と共感できるのが素敵だ。笑いを求めて作るのではなく、「なんか、わかる、わかる・・・そんなにひどくはないけど」と頷いて、クスッと笑わせてくれる作風が好きだ。

粋歌さんはワイドショーやドキュメンタリー番組をよく見ていて、そこからヒントを得ることも多いという。ファミリーレストランや喫茶店で隣の女性グループのおしゃべりを聞いて、発想することもあるという。リアルを拡大して落語にしているから、「共感」を呼ぶのだと思う。彼女は「社会派」を意識して創ることはないが、結果として、現代社会を象徴しているような落語が生まれてくるのは、常に時代の空気と触れ合っているからだろう。

今回、「白鳥彦いちの新作ハイカラ通り」優勝記念ということで、この独演会は開催されたが、図らずも来春に弁財亭和泉として真打に昇進する前祝い的な会となった。ゲストに三遊亭白鳥師匠と林家彦いち師匠を呼んで独演会を横浜にぎわい座で開ける権利を獲得した粋歌さんにとっては最高に嬉しい独演会ではなかったか。

粋歌さんは社会人を7年勤めてから入門した。前座時代は古典一本槍で、新作というのは全く頭になかったという。それが、二ツ目になったときに、先輩から「古典を演っていくためには、自分で新作を創った方がいい。噺の構成の勉強になるから」と勧められた。当時出版された三遊亭円丈師匠の著作「ろんだいえん 21世紀落語論」を読んだ。この本は新作落語入門的な要素が満載で、粋歌さんは夢中になって読んだという。そして、新作を創った。せっかく作ったら、演じたくなる。

一番最初に作った「おじいせん」は、年金をもらっているような年齢の男性にしか魅力を感じない女性が主人公の落語だが、これが意外なほど受けて、それ以来、いつのまにか新作派と呼ばれるような噺家になっていたそうだ。現在、古典も含めた持ちネタは100席。そのうち、新作は他の師匠が作ったものも含めると70席になるという。

そんな粋歌さんに大きな影響を与えたのが、今回のゲストである二人である。白鳥師匠は、女流落語家にあった落語を提供し、育ってもらおうという趣旨でウーマンズ落語会をはじめた恩人で、現在は真打である柳亭こみちさんなどに教えていた。そのこみち姉さんに誘われて粋歌さんも白鳥師匠から「ナースコール」を習い、白鳥ワールドの虜に。いまは、漫画「ガラスの仮面」を下敷きに白鳥師匠が全10話を作った「落語の仮面」の9話目までを習得し、二ツ目の間に全10話を完結させようと意気込んでいる。

彦いち師匠は渋谷らくごの新作ネタおろしの会「しゃべっちゃいなよ」のプロデューサーで、粋歌さんは2015年から声をかけてもらい、参加。16年には、1年間の中で最も優れている作品に贈られる創作大賞を「プロフェッショナル」で受賞している。そして、現在も「しゃべっちゃいなよ」には定期的に出演をしてネタおろしをしている。「何か締め切りがないと創れない」という粋歌さんにとって、「しゃべっちゃいなよ」は、新作ユニット「せめ達磨」と並び、大切な創作の場だ。

弁財亭和泉となっても、「白鳥モノ」(圓朝モノみたいでカッコイイですね)に磨きをかけるだろうし、シブラクという場でキリキリと胃を痛めながら創作を続けることと思う。先日、「古典を一つ習うと、新作2、3席にフィードバックできる」と言っていた粋歌さんの今後が楽しみだ。

林家きよひこ「反抗期」

三遊亭粋歌「女の鞄」

林家彦いち「あゆむ」

三遊亭白鳥「老人前座じじ太郎」

三遊亭粋歌「すぶや」

三遊亭粋歌「二人の秘密」

老老介護が問題になっているいま、それを粋歌さんらしく、ほっこりとしたハートウォーミングな噺に還元するところが僕は大好きだ。認知症で自分の女房は「10年前に餅を喉に詰まらせて死んだ」と思っているお父さん。甲斐甲斐しく介護するお母さんのことを、タキエさんというヘルパーさんだと思いこんでいるのだが、それを嫌な顔ひとつしないお母さんの笑顔が沁みる。お見合い結婚だった二人だが、お父さんは「タキエさん」に「理想の女性だ」と告白し、プロポーズしたときのお母さんの心中は複雑だと思う。だけれど、ニッコリ笑って「考えておきます」と答えるお母さんの気持ちは「嬉しかった」んだと思うのは、僕のような男の勝手な美談だろうか。いや、そうではない、と信じたい。「二人の秘密よ」という台詞で、涙腺が緩んだ。