誰がなんと言おうと もう夏なんです 春風亭一之輔「鰻の幇間」「真景累ヶ淵 宗悦殺し」

上野鈴本演芸場五月中席夜の部初日に行きました。今席は春風亭一之輔師匠が主任を勤め、「誰がなんと言おうと もう夏なんです」と題したネタ出し興行だ。①鰻の幇間②大山詣り③百川④馬の田楽⑤船徳⑥佃祭⑦唐茄子屋政談⑧宗悦殺し⑨水屋の富⑩青菜。きょうは「鰻の幇間」だった。
「子ほめ」春風亭一呂久/「人形買い」春風亭いっ休/太神楽曲芸 鏡味仙志郎・仙成/「星野屋」三遊亭わん丈/「半分垢」桂藤兵衛/漫才 ロケット団/「鮑のし」春風亭一朝/「ツイッター泥」三遊亭天どん/中入り/三味線漫談 林家あずみ/「しの字嫌い」春風亭㐂いち/「千早ふる」古今亭文菊/紙切り 林家楽一/「鰻の幇間」春風亭一之輔
一之輔師匠の「鰻の幇間」。相手をヨイショすることで生計を立てなくてはいけない幇間という職業の悲哀を実にユーモラスに描いている。「おぉ、師匠じゃないか」と呼び止められ、「どこの誰だったか…」と思い出せないけれど、判っている風を装ってしまう。「遊びにおいでよ」と言われても、どこに住んでいるのかも判らないが、「先のところでしたよね」と調子を合わせなければいけない。
酷い鰻屋の二階の座敷に一緒に上がり、ご馳走になっているから、汚くて不味くい店の文句も言えずに持ち上げていた一八だが…。男に逃げられ、勘定書きを突きつけられ、実は手銭で飲み食いしていたことが判明してからのやり場のない怒りが爆発するところ。本当に可哀想なのだが、可笑しくて堪らず、一八には申し訳ないけれど、笑ってしまう。この店に勤続58年だという女中のおたけさんにぶつける怒りの数々が具体性に富んでいて、これが一之輔師匠の真骨頂だろう。
畳がけば立っている、これは莚か!障子が破れているのを塞ぐのに、新聞紙を使うな!床の間に枯れすすき、それも一昨年からって!掛け軸が日に焼けてしまっているのを、ペナントを貼って誤魔化すな。湯河原の?聞いていない。お猪口が田中葬儀店、電話番号が書いてある。こっちは「寿たけし・やすこ」、三か月で別れた?
酒が口の中でボン!と弾ける。目覚まし時計みたいだ。越後の酒?コシノジュンコ?ミチコもあります?お新香が奈良漬、薄っぺらいキュウリはおが屑みたい。それに梅干しとはどういうことだ?日本では古来より食い合わせというのがあるんだ。これ、鰻?ウツボか、ゴムホースみたい。筋骨隆々。鰻の雷電為右衛門か!これ、タレ?ただの醤油だろう。代々秘伝のタレ?どうやって作るの?企業秘密かよ!従業員、全員呼べ!マヨネーズは鰻の薬味じゃない!
一通り怒りを並べた後に、一八が勘定を払う段で話すエピソードが哀しい。着物に縫い付けていた10円札を取り出し、この10円札は自分が稼いだ金じゃない、20年前に芸人になりたいと親の反対を押し切って家を出たときに、3つ違いの弟が追いかけてきて、「兄さんは夢を追ってください。そして、立派な幇間になってください。そのときにはお座敷に呼びます」と言って渡してくれた10円札なのだ。こんな人情噺をしている一八には耳も貸さずに、女中のおたけさんは漫画「あかね噺」を読んでいるという…。一之輔カラー満載の愉しくて、ちょっと哀しい高座だった。
上野鈴本演芸場五月中席夜の部八日目に行きました。今席は春風亭一之輔師匠が主任を勤め、「誰がなんと言おうと もう夏なんです」と題したネタ出し興行だ。きょうは「真景累ヶ淵 宗悦殺し」だった。
「代脈」柳亭市遼/「権助魚」春風亭与いち/太神楽曲芸 翁家勝丸・丸果/「やかん」林家つる子/「黄金の大黒」桂藤兵衛/漫才 風藤松原/「たがや」春風亭一朝/「弟子の強飯」春風亭百栄/中入り/三味線漫談 林家あずみ/「祇園祭」春風亭㐂いち/「あくび指南」古今亭文菊/紙切り 林家楽一/「真景累ヶ淵 宗悦殺し」春風亭一之輔
一之輔師匠の「宗悦殺し」。小日向服部坂に住む280石の旗本、深見新左衛門はいかにも「小普請組」という感じで、出世がおぼつかないのに、按摩の皆川宗悦を邪険に扱うところ、嫌な奴だなあと感じさせる一之輔師匠の描写が良い。
湯豆腐で酒を飲んでいた新左衛門は宗悦に酌をして機嫌良くしていたが、宗悦が「都合したお金を少しでも返してほしい」と切り出す途端に不機嫌になる。「利息だけでも…」と言う宗悦に対し、「いずれ春永に必ず返す。安心しろ。ない袖は振れぬ」と新左衛門があしらうと、宗悦は「春永と言われて、もう三年になります。目途をつけてほしい」と食い下がる。「武士に二言はない」と新左衛門が言うと、「確か半年前にもそうおっしゃっていました」と宗悦は返す。
すると、新左衛門は「しつこいぞ。無礼討ちに致すぞ」と脅す。しかし、宗悦は怯まない。「そんなことをされたら、金貸しは皆首無しになってしまいます。私も男。二人の娘を養わないといけない。きょうは頂戴すると決めて出てきた。梃子でも動かない」と頑なである。さらに「お侍は弱い者を苛める。私の方が道理に適っている」と言って、「結構ですよ、お斬りください」と覚悟を見せる。
これを聞いた新左衛門は「もう、よい。ならば、斬る!」と言って、宗悦を一刀両断、斬り殺してしまった。「按摩一人くらい、何ともない。上役にも無礼討ちと言えば通る」。だが、奥方は宗悦が気の毒でならない。死骸は油紙に包んで葛籠に入れ、下男の三吉に金を渡し、「どこかに捨てて来い。決して口外するな。露見したらお前の首はないぞ」と脅した。秋葉原の自身番近くに放置された死骸を駕籠屋が見つけ、宗悦の住む根津七軒町の人たちが「これは宗悦さんだ」と騒ぎ、お志賀とお園の二人の娘が引き取って葬った。深見新左衛門のところに借金の取り立てに行ったことを知っていた娘たちが問い質したが、知らぬ存ぜぬを貫かれてしまった。
だが、深見家では奥方が気鬱から病に伏せ、長男の新五郎が看病にあたったが、良くならない。新左衛門は反省するどころか、女中のお熊と密通し、奥方を蔑ろにしてしまう。それに嫌気がさした新五郎は逐電。按摩を呼んで、奥方に鍼療治を試みると、三日ほどは良好だったが、四日目にみぞおちに刺した鍼が元で膿となり、熱をもって腫れてしまい、病は悪化してしまい、その按摩は逃げてしまった。奥方は「死んでしまいたい」と思うようになる。
門番の勘蔵に按摩を探させるが、違う年老いた按摩しか捉まらず、その按摩は「鍼は不得手。療治も出来ない」と言う。それなら「俺の肩でも揉んでくれ」と新左衛門が頼むが非力なのか、まるで効かず、「もう、よい。こんなことでは金は払えぬ。去れ」と言うと、その按摩は豹変する。「これでいかがですかな」と言って肩を揉み出すと、これが「痛い!」と新左衛門が叫ぶ。
すると、「金を払えないと言われたら、力を入れざるを得ない。痛うございますか…去年12月8日の傷に比べれば、こんなものは痛いうちに入らない」。ハッとした新左衛門、「宗悦、迷うたか!」と言って、その按摩を斬り捨てる。「なぜ、私を斬るのですか!」。それは奥方であった。さらに乱心した新左衛門は隣屋敷にまで暴れ込み、刀を振り回した。
結果、深見家は御家取り潰しとなり、二歳の次男新吉は勘蔵が連れ出して育てる。この深見家の新五郎と新吉、皆川宗悦の娘のお志賀とお園がその後、不思議な因縁で絡み合う「真景累ヶ淵」。その発端を丁寧に聴かせてくれた。

