【プロジェクトX】QRコード誕生~夢路に咲いた世界標準~

NHK総合で「プロジェクトX QRコード誕生~夢路に咲いた世界標準~」を観ました。いまや日常生活に欠かせない情報社会のインフラになっているQRコードは、QuickResponceの略であること、これを開発したのがIT企業ではなく、日本の自動車部品メーカーのデンソーであることを初めて知った。そして、その開発秘話に感動した。

1990年代、自動車産業が活況を呈していたとき、トヨタ自動車は年間生産489万台を誇っていた。そして必要なときに必要な量を、在庫を最小限に抑えることで注目された「トヨタ生産方式」を支えたのは、部品の種類や行き先を記録するバーコードであった。だが、自動車の多機能化が進み、情報量が急増すると、そのバーコードの読み取りが困難を極め、工場を混乱させた。さらに、油汚れなどで読み取れないという不具合も生じ、生産現場は危機にさらされた。

この解決策を探ろうと立ち上がったのが、デンソーの原昌宏。読み取り機開発一筋の一匹狼と呼ばれた男だ。宇宙開発やインターネットの世界でトップをいくアメリカの2次元コードを取り寄せたが、大容量を読み取るのに精度が低く、遅いという欠点を見つける。原はこれを逆に「チャンス」と捉えた。

原は中学生の頃にエンジニアに憧れた。父・文雄が電子部品の特許を持っていることが自慢のエンジニアで、その後ろ姿を見て育った。「世の中に無いものを作るエンジニアになりたい」と言うと、父は「蒔かぬ種は生えぬ」と言った。行動しなければ、道は拓かれないというメッセージだった。

2次元コードの開発は「父を超える挑戦」と思い、上司に「作らせてください」と嘆願した。予算もない、時間もない、作れるわけがないと言われると、「なにくそ、見返してやる」と闘志に燃え、「目指すは世界標準。2年だけ時間をください」と言って、許しを得た。当時、憧れの父が脳梗塞に倒れ、半身まひになっていたこともあり、「2年」という期限を自らに課した。

プロジェクトのメンバーはたった2人。原と「指示待ち人間だった」と後に振り返る渡部元秋。当時の2次元コード、PDF417は大容量だがコード面積が大きかった。データマトリックスはコード面積は小さいが読み取りの精度が低かった。マキシーコードは容量が小さかった。

開発に着手した1992年夏。読み取り速度が遅く、コードの位置を特定できない難点をいかに解消するか。周りと区別しやすい特徴的な目印があれば、コードをすぐに検出できるのではないかと考えた。どんな形の目印にするか。単純だと周囲の文字や記号が含まれている可能性が高い。だが、複雑にすると印刷が難しい。「単純かつ珍しい形」の目印を生み出そうと、原と渡部の二人三脚がはじまった。

もう一つ、壁があった。汚れに強くすることだ。そのためには乱れたデータを修復する誤り訂正機能の開発が急務だった。このためには高度な計算を要する。豊田中央研究所の長尾隆之に白羽の矢を立てた。長尾は原の「世界標準の夢」に賭けるモノづくりの情熱に心を打たれた。専門書を読み漁った。

原と渡部は総当たり作戦に出る。世界中のありとあらゆる印刷物を撮影し、白と黒の比率をしらみつぶしに調べた。出現率が最も低い比率を探すという途方もない作業だった。2か月をかけて、数千点の印刷物を調べた。そして、白と黒の比率の一覧を作ると、出現率が圧倒的に少ない比率が見つかった。1:1:3:1:1。執念が奇跡の発見を生んだ。これが現在のQRコードの四つの隅の三つにある正方形である。力業だった。

一方、長尾が担当する「誤り訂正機能」。リード・ソロモン符号という数学の手法が有効であることがわかった。最大30%汚れても正しく読み取れるために。手計算したものをパソコンで動作チェックすることを繰り返し、難解なプログラムをついに組み上げた。

この二つの研究開発が合体し、文字や記号に埋もれても瞬時に読み取ることができるようになった。その速さ、0.03秒。アメリカの技術の10倍以上の速さだった。早速、工場に導入し、作業効率は飛躍的に上昇した。

だが、原たちの目指すのは「世界標準」だ。性能では負けていない。国際標準化機構(ISO)に認めてもらうために、勝負の一手を打った。「使用制限なし。ライセンス使用料なし」。あえて捨てて陣地を広げる。原が少年時代に父と碁を打っていた経験から得た発想だった。

2000年6月。国際標準化機構から認定を受ける。携帯電話から世界中の人が使うQRコード。2014年には、この功績が認められ、原たちは発明家のアカデミー賞といわれる欧州発明家賞を日本人として初めて受賞した。GPS、無線LANと並ぶ画期的な発明と称されたのだ。

原は「これで父を超えたかな。親孝行ができた」と振り返る。不器用な技術者が蒔き続けた種が、見事に花を咲かせた。素晴らしい業績に拍手喝采である。