落語一之輔春秋三夜 第二夜「干物箱」「真景累ヶ淵 深見新五郎」

「落語一之輔春秋三夜 2026春」第二夜に行きました。「干物箱」「真景累ヶ淵 深見新五郎」「青菜」の三席。開口一番は春風亭貫いちさんで「啞の釣り」だった。

「干物箱」が嬉しかった。吉原で遊び呆けている若旦那孝太郎を父親が懲らしめのために十日間蟄居閉門、つまりは二階から一歩も出ないようにしてしまった。少しは反省したろうと、30分だけ湯に出掛けてよいと言われた孝太郎はどうしても花魁に会いたくなって、自分の声色の上手い貸本屋の善公に頼んで、ダミーとして二階で留守番をしてほしいという作戦を考えるという噺。

一之輔師匠はきちんと善公が「親父さんから何か訊かれたらどうするのか」と不安を口にして、孝太郎が親父の代わりに運座に出たときのことを訊かれるかもしれないと予測し、巻頭の句と巻軸の句を紙に書いて渡すという場面を作った。これは悪知恵を働かせる孝太郎なら至極当然のことで、無防備に善公を自分の家の二階に置くことはしないだろうと思う。この件を省いてしまう噺家さんの高座を最近何席か聴いて違和感を覚えていたので、さすが一之輔師匠と思った。

案の定、親父は運座のことを訊いてきて、善公はなんとかそれをクリアする。だが、その後に同じく親父の代わりに行った無尽で誰に落ちたかを訊かれ、答えに窮してしまう。それも何とか誤魔化したと思ったら、今度は「若宮町の叔母さんから貰った干物」のことを訊いてくる。あれは何の干物だったか、どこに仕舞ったか。鯨の干物だとか、干物箱に仕舞ったとか、たじろぐ善公を面白く聴けるのも、前段に「運座の仕込み」があればこそなわけだ。実に愉しい高座に仕上がった。

「深見新五郎」、ネタおろし。因果は巡るという圓朝作品の魅力をしっかりと描いていた。深見新左衛門が殺した皆川宗悦の次女お園が、新左衛門の長男新五郎が奉公に入った下総屋の女中として働いていて、新五郎はお園に惚れてしまう。しかし、なぜかお園は新五郎が好きになれない。この感情は何なのかと彼女も判らないが、兎に角虫が好かない、鳥肌が立つ。それが因縁なのだろう。

新五郎は父新左衛門と仲が悪く、家を出て諸国を巡って修行をしていたが、時間も経ったことだし、「詫びを入れよう」と実家に帰ると、父は乱心して母を殺し、自らも討死したと知らされる。新五郎は深見家の墓の前で自害をしようとしたが、谷中の下総屋惣兵衛がこれを止め、侍であることを隠して下総屋に奉公させる。真面目に働き、「新どん」と呼ばれ、奉公人の間では評判も良かった。

女中のお園が病に伏せたときも、新五郎は熱心に看病した。だが、お園はなぜか新五郎のことが好きになれなかった。新五郎の丹精もあり、お園は全快する。ある晩、仕事で酔って帰って来た新五郎が女中部屋を覗くと、お園が独りで縫物をしている。新五郎はここぞとばかりに口説きにかかる。だが、お園は新五郎が「恩着せがましい」と思い、「ほっておいてほしい」と言いたくなる。新五郎も嫌われていることは判っているが、「好きで好きでならない」と告白し、「たった一度でいいから、あなたの床の隅に入れてほしい」と願う。お園は仕方なく、それに従うが、体を固くして背を向けるばかりで、新五郎は諦めて自分の部屋へ戻る。

翌日、下総屋の蔵の塗り替え。お園が職人の食べる漬物を取りにいくところを、新五郎が後ろから追う。「やっぱり思い切れない。一度でいいから思いを聞いてくれないか」と迫り、お園を藁の上に押し倒してしまった。藁の下には押し切りが置いてあって、お園の背中をざっくりと切って、絶命してしまった。新五郎は自分が犯してしまった罪に気づいたが、毒を食らわば皿まで。下総屋の金庫から百両を盗んで逐電してしまう。

一旦は昔の剣術の師匠黒板一斎を頼り奥州仙台へ行くも、師匠が亡くなり、江戸へ戻る。昔、父新左衛門に仕えていた勇次が本所松倉町で荒物屋をしているので世話になろうと出向くが、勇次は数年前に亡くなっていて、娘のはるに会う。はるが奉公の請け人になってくれると言う。一安心していたが…。はるの亭主が石川伴作という同心の手下の森田の金太郎という十手持ちで、指名手配中の新五郎を召し捕りにかかる。

新五郎は二階の窓から物干し、そして蔵の上へと逃げ、捕手たちがいない墓場を見つけて、そこに飛び降りるも、そこには藁が敷いてあり、押し切りが置いてあった。新五郎は土踏まずをザックリと切ってしまい、あえなくお縄となり、「お園殺しと百両盗難」の罪で獄門に入ったという…。押し切りが繋ぐ因果応報のストーリーを興味深く聴かせてくれた。