浪曲定席木馬亭 国本はる乃「忠治関宿」玉川奈々福「陸奥間違い」天中軒雲月「瑤泉院 涙の南部坂」

木馬亭の日本浪曲協会十一月定席六日目に行きました。
「馬子唄しぐれ」富士琴哉・水乃金魚/「楽屋草履」三門綾・広沢美舟/「轆轤首」港家小そめ・沢村博喜/「姿三四郎恋暦」広沢菊春・広沢美舟/中入り/「忠治関宿」国本はる乃・沢村道世/「木村又蔵」田辺鶴英/「陸奥間違い」玉川奈々福・広沢美舟/「瑤泉院 涙の南部坂」天中軒雲月・沢村博喜
はる乃さんの「忠治関宿」。国定忠治が大前田英五郎の身内の不動の新助と名乗って旅をしていたとき、出会った十六歳の友太郎との縁に思いを馳せる。亀屋万蔵のイカサマ博奕によって友太郎の父親は首を括ってしまった。その上、借金のカタとして友太郎の姉で十九歳になるお花と無理やり祝言を挙げさせられる。それが許せない友太郎は忠治を万蔵と思い、槍で突いたのだった。
事情を訊いた忠治はその祝言に乗り込み、夫婦の三々九度のところで、待ったをかける。「その盃は不承知だ!」。侠客は強きを挫き、弱きを助けるんじゃないのか。お前は強きに媚びて、弱きを苛める、男の風上にもおけない野郎だ!忠治は自らを不動の新助と名乗り、お花と友太郎を助け、50両の金を渡して去っていく。カッコイイ。
二十年後。お花は木村屋善兵衛という親分の女房になり、友太郎はその下で十手持ちとして働いている。「上州屋に国定が草鞋を脱いだ」という情報を掴んだ友太郎は親分に密告すると、「国定忠治は火事より怖い。ニッコリ笑って人を斬る。同じやられるなら、お前一人でやられてこい」と言われ、友太郎は上州屋へ。すると、そこには二十年前に日光街道幸手で助けてもらった恩義のある「不動の新助」!忠治は「色々出鱈目な名前を名乗ったが、新助は気持ちのいい名前だった」。友太郎が言う。「申し訳ございません。私はあのときの小僧です」。
忠治は嬉しそうに「そうか…立派になったな。どうせ縄目に掛かるなら、友さんの縄目に掛かって死んでいこう」。だが、友太郎は「なぜにあなたに縄を打てようか。昔受けた恩義の道が立ちません」。友太郎はお花のところに行って仔細を話し、忠治を利根川の船に乗せて逃がすために、木村屋の船の合鍵を借りる。船に乗った忠治を「達者で暮してください」と岸から見送り、すすり泣くお花。そして、その様子をそっと見守っていたのが木村屋善兵衛だ。忠治を守り逃がすことは百も承知、二百も合点の親分肌に痺れた。
奈々福先生の「陸奥間違い」。穴山小左衛門の下郎、仙助の田舎育ちで正直一徹、憎めないキャラクターを鮮やかに描いて楽しかった。300石の祐筆である松野陸奥守へ三十両の無心の手紙を届ける遣い。欠字のために伊達62万石の松平陸奥守の屋敷に「使者」として迎え入れられ、わけもわからずに歓待されている仙助の様子が目に見えるようだ。
伊達の殿様は「大名の中の大名とみこまれた」と喜び、三十両ではなく、三千両の間違いだろう、これからは伊達家が続く限り毎年三千俵の米を贈るという…。穴山小左衛門は伊達家の使者である渡辺次郎左衛門に、これを受けてくれなければ切腹すると言われ、困惑する様が可笑しい。直参の旗本が外様の大名の施しを受けて良いものか…。千代田城に走り、指示を仰ぐと、この案件が松平伊豆守から将軍家綱にまでエスカレート。最終的に「戴けるものは戴いて、後日返礼をすれば良い」ということに。ユーモラスであるだけでなく、「貧ほどつらきものはなし」という小役人の穴山への熱い情けが感じられて良いなあ。
このような間違いは二度と起こらぬよう、陸奥守は伊達家だけのものとなり、伊達家としても光栄。また、松野陸奥守も河内守となって、3000石加増。穴山と仙助も手厚く処遇され、全員がハッピーというおめでたい読み物である。
雲月先生の「涙の南部坂」。仇討本懐を遂げるために、敵を欺くにはまず味方からと、慎重には慎重を重ねた大石内蔵助の胸の張り裂けるような思いに感じ入る。瑤泉院様を訪ねたときに、「待てよ。見慣れぬ顔がいる。敵の間者かもしれぬ。もし討ち入りが知れたら、これまでの苦労も水の泡。仏作って魂入れずとはこのこと。奥方には済まぬが、真の大事は明かせぬ」と考えた冷静沈着が素晴らしい。
そして、山科へ立ち還り、忠臣二君にまみえず、出家して殿の菩提を弔う、息子の主税は天野屋利兵衛のところで商人にする。「いよいよ、時は参りましたな」と、今日か明日かと待ちわびて、心が踊っていた瑤泉院をガッカリさせるような嘘をつく。一時的な残念な気持ちも、一夜明けたら、嬉し涙に変わるということを信じて、内蔵助は心を鬼にする。
瑤泉院は言う。田村屋敷で片岡源五右衛門から聞いた殿の遺言、「ただ、大石に余は無念じゃと伝えよ」を忘れたのか。武士には武士の思い、そして絆があるだろう。わらわはきょうの日までじっと待っていた。隠す気持ちも無理はない。だが、わらわの気持ちを斟酌してくだされ。女と生まれた、この身が悔しい。内蔵助は御仏の前に行きなさい。もう、この世で会うことはない。さらばじゃ。
内蔵助は瑤泉院の後ろ姿を見送った後、仏間で一人で手を合わせ、線香を手向け、位牌を前にして両目から涙が溢れた。そして、気を取り直し、瑤泉院宅を辞し、雪の中、両国へと戻っていった。
その後、瑤泉院は内匠頭の仏壇で無念の涙を流す。そのとき、位牌の横に見慣れぬ巻物を見つける。それは…忠臣一同、四十七人の堅き誓いの連判状だった。瑤泉院は驚く。「彼らの忠義の心も知らず、わらわは恥ずかしい」。そして、仏壇にそっと手を合わせた。
夜が明けると、「ご注進!」と寺坂吉右衛門が駆けつけ、昨晩の討ち入りの一部始終を物語る。瑤泉院は嬉し涙を流すばかりであった。忠義の蔭に涙あり。雲月先生、渾身の高座であった。

