人形町噺し問屋 三遊亭兼好「茶の湯」、そして集まれ!信楽村 柳亭信楽「ディスパッチ」

「人形町噺し問屋~三遊亭兼好独演会」に行きました。「厩火事」と「茶の湯」の二席。ゲストはだるま食堂、開口一番は三遊亭げんきさんで「黄金の大黒」。また、今月1日から二ツ目に昇進したけろよん改め三遊亭兼作さんが「おすわどん」を演じた。
「茶の湯」、兼好師匠は隠居の持っている長屋の店子3人を最後にもってくる演出。以前、このことについて伺ったら「この方が効果的だと思い、変えて演じるようになった」とおっしゃっていた。きょうの高座を聴いて得心がいった。
「流儀が思い出せない」という隠居は定吉に導かれるままに、青黄粉と山葵と椋の皮を混入した、得体の知れない“茶の湯”を製造して、悶絶しながら自己流の「風流」を楽しむ、いや苦しむという…。「知ったかぶり」の皮肉の効いた馬鹿馬鹿しさが良い。
出入りの米屋や魚屋、果ては通りすがりの人まで巻き込んで、無理やりに「悶絶茶の湯」を飲ませ、犠牲者を増やしていく。茶室の掛け軸に「四面楚歌」とあるのが可笑しい。藤村の羊羹目当ての客に対し、これまた得体の知れない「利休饅頭」と名付けた、口にするのも恐ろしい茶菓子を出すようになり、誰も寄り付かなくなってしまう。
そこで、新たな鉱脈として隠居が「茶の湯の誘い」の手紙を送ったのが、隣町にある自分が家主をしている三軒長屋。豆腐屋、鳶頭、手習の師匠の三人が新たな犠牲者になるわけだ。「流儀を知らないから恥をかく」と困惑していた彼らを待っていたのは流儀なんかどうでもいい悪魔の茶の湯。三人の悶絶する様子をクライマックスにもってきて、爆笑で終わる。さすが名手、兼好師匠だ。
「集まれ!信楽村~柳亭信楽勉強会」に行きました。「松曳き」「せみがなく」「ディスパッチ」「大工調べ」の四席。来年1月17日に開催する第5回「信楽 化ける会」のゲストが柳家三三師匠であることを発表した。
「せみがなく」は瀧川鯉白さんの作品。信楽さんとはカラーが違うというか、独特の世界観をもった落語で、聴く人によっては「?」と思ってしまう人もいるだろう。僕も必死に食らいついた。まあ、多様性こそ落語の魅力ということか。
公園でセミを捕獲している大学生がいたので、「セミの寿命は短いのだからやめなさい」と注意した中年のおじさん。「幼虫でもない、成虫でもない、羽化した時期が一番美味いんだ」と言って、大学生はそのおじさんを家に連れて行き、フライパンでセミをチリソース炒めにして、おじさんに食わせると…。これが美味い!そして、おじさんはセミになって飛んで行った…。奇想天外、荒唐無稽。不思議な可笑しさがあった。
「ディスパッチ」は信楽さんが「しみ、ハッピーセット、大予言」の三つのお題で創作した三題噺。これがまた、鯉白さんに負けず劣らず、奇想天外で荒唐無稽だった。変な人しか出てこない。マクドナルドのハッピーセットを大量に購入したセーラー服を着た男とネクタイにブリーフ1枚という格好の男が勝負することになる。その勝負の決め方をどうすれば良いか。不審者同級生4人組に相談する…。彼らは全員早稲田大学卒で、NPO法人世界経済動向不審者協会のメンバーだという。
ブラジャーでおにぎりを握るという男。木星からやってきた宇宙人だという男。ネギトロとトビッコの軍艦巻専門のブローカー。ステラおばさんを崇拝しているという占い師。占い師がセーラー服とブリーフの二人に訊く。フリーメーソンに入っているか。答えは両者ともイエス。そこで、ステラおばさんのクッキーで占うことにするが…。徹底的にナンセンスを貫いた作品に、これまでの信楽落語とは違う新しい試みが見えた。