花形演芸会 桂三実「あの人どこ行くの?」、そして水谷千重子50周年記念公演

花形演芸会に行きました。
「元犬」柳家しろ八/「あの人どこ行くの?」桂三実/漫才 ドドん/「かぼちゃや」瀧川鯉丸/「青菜」春風亭一蔵/中入り/「祇園会」春風亭一朝/ヴォードヴィル 上の助空五郎/「景清」林家はな平
三実さんの新作落語。令和6年度に「早口言葉が邪魔をする」でNHK新人落語大賞を受賞したが、その前年の令和5年度も決勝に進出していて、この「あの人どこ行くの?」を演じているのを聴いて僕は面白いと思った。ある審査員が「大阪の細かい地名が沢山出てきて関西ローカルネタだ」と酷評していたが、それがかえって面白かったのだ。柳家喬太郎師匠のウルトラマン落語のような感覚。正確に伝わらなくてもニュアンスで伝わる笑いの素晴らしさとでも言おうか。
電車の乗客を小学校1年生のユキちゃんが推理する。あの30代のお姉さん三人組は宝塚に観劇に行きそうが、同じ宝塚でも宝塚劇場ではなくて梅田芸術劇場の方…いや地下のシアタードラマシティで東京03の単独ライブだ!と見せかけて、オリックス劇場の純烈のライブに行くんだとか。
あの阪神タイガースのユニホームを着ているおじちゃんは応援で甲子園に行くかと思いきや、背番号32番は今は二軍の井上選手のファンだから、尼崎の小田南公園の球場のある大物駅に行くのだと推測する。阪神の二軍は去年まで西宮の鳴尾浜球場だったが、今年からゼロカーボンベースボールパークに移転しているところを、きちんと修正しているのがすごい。
ヴォードヴィルの上の助空五郎は流石、令和6年度金賞受賞。ギター演奏でボサノバ風に♪寄席へ行こう~という歌からスタート。タップを踏みながら、チュルチュル、チュルル~と流し素麺を歌ったかと思うと、口でトランペット、トロンボーン、サックスと吹き分けて、「川柳師匠を思い出す人もいるのでは」と笑いを取る腕もある。
自分の芸は「扇風機で言うと強でも弱でもなく、微風です」と言って、これまたけだるい雰囲気で♬一人で生まれて、一人で死ぬに、なぜに一人で生きられぬ~と歌う歌詞が素敵だ。♬それはそれ、これはこれ~と、誹謗中傷やデマの溢れる社会諷刺も鋭くて良い。
はな平師匠の「景清」はもう少し強く、定次郎の思いを表現すると良いと思った。江戸で一番とは言わないまでも五本の指には入る木彫りの名人だった定次郎が中途失明してしまった悔しさ。そして、息子の目が明くことを一緒になって祈っている母親の願い。「おふくろが縫ってくれたこの縞物の着物の柄が判らないと家に帰れない」と言う台詞。定次郎の木彫り師として後世に残る品を彫りたいと願う母子の思いはもっと熱いはずだ。
落雷によって倒れた定次郎が正気に戻ったとき、水溜まりに映った月が見えた。「明いた!おふくろに報せに行かなくちゃ」と家に戻って、母親と喜びを分かち合い、「明日からはまた良い仕事が出来る」と言う定次郎。あれだけ定次郎を応援していた石田の旦那はどうしたのかを含め、後日談を少し加える演出がほしいと個人的に思う。
水谷千重子50周年記念公演に行きました。2019年、21年、23年に続き、4回目の「50周年記念」(笑)である。設定は福井県出身。幼少時に飛び入り出演した「歌まね生一本」でグランドチャンピオンとなり、芸能界入り。「万博ササニシキ」でデビューを果たし、以来演歌とJ―POPの架け橋的存在として幅広く活動している歌手である…。
第一部は水谷主演の芝居「CAKUGO 愛と憎しみと追憶と沈黙のミス・フローレンス」。これまでは「とんち尼将軍 一休ねえさん」「ドタバタ笑歌劇 神社にラブソングを」「大江戸混戦物語 ニンジャーゾーン」と和が続いたが、今回は初の洋モノに挑戦。1960年代のニューヨークのブロードウェイを舞台にした一大スペクタクルで、彼女らしいウィットに富んだミュージカル風な演出が面白かった。
30分の休憩でロビーに出て、ポスターを見ていたら、おばちゃん二人組が「芸歴50年になるのね」と本気で喋っていたのを聞いて、微笑ましい気持ちになった。
第二部は「千重子オンステージ」と題した歌謡ショー。オリジナル曲♬お祭り女で登場した後、先日発売したばかりのアルバム「LOVE昭和SONGS」から、小柳ルミ子さんの楽曲、♬今さらジローと♬乱を熱唱した。さらに映画「犬神家の一族」のテーマ曲♬愛のバラードを歌い上げる。
ここで、本日のゲスト、麻倉未稀さんが登場。代表曲♬ヒーローを歌って、その歌唱力に圧倒された。30年以上前のヒット曲だが、今もキーを下げないで歌っているという。毎月一回のボイストレーニングを欠かさないそうである。続いて、♬ホワット・ア・フィーリング。どちらも大映テレビ制作のドラマの主題曲、前者が「スクールウォーズ」、後者が「スチュワーデス物語」。懐かしかった。
ここで水谷とトークをしたが、「友近ちゃんが大映ドラマのファンだった」と言って、「乳姉妹」を挙げ、冒頭のナレーションを空でスラスラと水谷が朗じた。春の嵐のその夜中、二人の嬰児生まれたり、同じ海辺のその里に、一人は広き別荘に、一人は狭き賎が家に…。すごい。そして、「乳姉妹」のテーマ曲♬RUNAWAYを二人で歌ったのが良かった。
この後、北原ミレイの♬石狩挽歌、夏川りみの♬童神(わらびがみ)ヤマトグチバージョン、オリジナル曲♬あまえたって駄目さで締めた。
そして、アンコールでやはりオリジナル曲♬人生かぞえ歌を歌い、終演。水谷千重子の歌唱力を再認識した。