歌舞伎「男達ばやり」、そして立川談洲ツキイチ落語会「居残り佐平次」

八月納涼歌舞伎第一部に行きました。「男達ばやり」「猩々」「団子売」の三演目。

「男達ばやり」。町奴・朝日奈三郎兵衛に坂東巳之助。旗本奴・三浦小次郎義也に中村隼人。この二人の意地の張り合いをある意味滑稽に描き、男伊達の達引を皮肉っているのが面白い。「男の美学」とばかりに英雄気取りの侠客を嘲笑う、劇作家の池田大伍の筆が揮っている。

一銭茶店を営んでいた老人六兵衛が入り婿の又兵衛とその後妻のとまに店を乗っ取られたことを苦にして不忍池に身投げして死のうとするのを、朝比奈が助けた。この現場に三浦もいたのだが、水練の心得がないために手柄をみすみす三郎兵衛に取られてしまった。「人助け屋」と評判の朝比奈のお株を奪って、男伊達の名を売るチャンスだったのにと地団駄を踏む。

だが、六兵衛が新しく茶店をはじめるのに30両という資金が必要と訊き、朝比奈が「明日までに用意する」と約束したが、これを聞いていた三浦は「これは先を越すチャンス」とばかり、六兵衛に「もし用意されなければ、自分が用意してやる」と六兵衛に告げた。

朝比奈は又兵衛・とまの茶店に夜中に盗賊に入り、30両を巻きあげようと考えた。それを先読みしていた三浦は茶店に泊まり込み、朝比奈を見咎めて追い返す。そして、又兵衛夫婦に対し「命の礼」として30両を巻きあげた。二人は同じことを考えていたわけだ。

翌朝。六兵衛に30両を渡せなくなった朝比奈は腹を切って詫びると言う。そこへ三浦が現れ、昨晩の30両を投げつける。男のメンツをつぶされた朝比奈は三浦に斬りかかろうとするが…。朝比奈の兄弟分たちが現れ、それを止める。それでも意地になっている朝比奈に三浦は根負けして詫び状を書くことで一件落着。

老人六兵衛を助けてやって正義のヒーローになろうと考えた、町奴の朝比奈三郎兵衛と旗本奴の三浦小次郎の意地の張り合いを皮肉に描き、かえってユーモラスなのが良かった。

「ふくらぎ~立川談洲ツキイチ落語会」に行きました。「藪入り」「狸札」「居残り佐平次」の三席。

「居残り佐平次」の後半に独自の仕掛けをして、面白かった。一文無しであることを白状して、布団部屋を拠点に動き回る佐平次の氏素性が最終盤で判るのが興味深い。

居残りとなった佐平次は店の人気者になる。客には話題の芝居や役者について豊富な知識を披露して楽しませ、板前には隠し味の秘法を伝授したり新しい料理の提案をしたりして喜ばれ、芸者には踊りの稽古をつけたり化粧のやり方を教えたりして重宝がられ、花魁には男女関係だけでなく人生全般の相談に乗ってあげて信頼を得る。その上、この店で働く者皆に祝儀の割り前を配って有難がられている。誰も不平不満がない。

「あんな優秀な人が、なぜ居残りをやっているのか」不思議でならない。そして、店の主人に佐平次が呼ばれる。「ここまで店が繁盛したのは、居残りさんのお陰。筋を通して、この店で奉公人として働いてみてはどうか」と提案される。

すると佐平次は幼少時代のことを話し出す。両親が経営する廓で一人息子として育った。何不自由ない暮らしだった。父親の古くからの知り合いだという番頭が店を切り盛りしていた。正直言って、信頼もなく、周囲の評判は良くなかった。ある日、店から出火して火事となり、両親も店もなくなった。そして、番頭と帳簿だけがなぜか消えた。風の噂で品川の大店の主をしていると聞いた。私は息子の佐平次です、番頭さん!盗られたものは返してもらう。

佐平次が店の奉公人たちに訊く。私に出ていってもらいたい人はいますか?逆に「この人」に出ていってもらいたい人はいますか?答えは明白だった。「あなたの許に何人残るでしょうか…ここでも随分と評判が悪いようですね」。そして、「この店の主人だった男」は出ていった。大逆転劇の居残り佐平次。面白かった。