新宿末廣亭 玉川太福初主任興行「地べたの二人 愛しのロウリュ」
新宿末廣亭一月下席九日目に行きました。今席は夜の部を玉川太福先生が初めて主任を勤める興行。浪曲師が寄席定席で主任を勤めるのは二代目広沢菊春先生が横浜の相鉄演芸場と川崎演芸場で主任を勤めた昭和35年以来、65年ぶりの快挙である。興行は連日二階席までいっぱいとなる大盛況と聞いて、昼の部の途中から入場した。
昼の部 「強情灸」三遊亭円丸/「片棒」立川談幸/中入り/「子ほめ」桂三度/漫談 国分健二/「たらちね」三遊亭遊吉/「紀州」柳家蝠丸/曲芸 ボンボンブラザース/「親子酒」三遊亭遊三
夜の部 「道具や」桂伸都/「権助魚」春風亭昇吾/漫才 おせつときょうた/「転宅」春風亭柳雀/「看板のピン」三遊亭王楽/「一寸法師 ちび助物語」(昭和10年)坂本頼光/「粗忽長屋」柳亭小痴楽/「左甚五郎 笑う首」広沢菊春・広沢美舟/漫談 ねづっち/「魚根問」春風亭柳橋/中入り/「初天神」春風亭昇々/コント ニュースペーパー/「罪と罰」昔昔亭A太郎/「七段目」桂南なん/漫謡 東京ボーイズ/「地べたの二人 愛しのロウリュ」玉川太福・玉川みね子
太福先生のトリネタは初日から①陸奥間違い②天保水滸伝 笹川の花会③地べたの二人 湯船の二人④男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け⑤祐子のセーター⑥若き日の大浦兼武⑦任侠流れの豚次伝 流山の決闘⑧中村仲蔵。そして、きょうは「地べたの二人 愛しのロウリュ」だった。
サウナ好きが高じて、サウナ健康アドバイザーという肩書もある太福先生らしい一席だ。日ノ出電気の金井君が銭湯好きであることを知った先輩の齋藤さんがサウナに誘う。「銭湯とサウナはほぼ同じだろう」という思い込みが齋藤さんらしいが、実は金井君はサウナは初体験だった…。未知の世界に迷い込んだ二人の描写が面白い。
お客さんの中に本格的に浪曲を唸っている人(多分、太福先生なのだろう)がいて、♬利根の川風袂に入れて、月に掉さす高瀬舟~と「天保水滸伝」の外題付けを、わたしゃ九十九里荒浜育ち、と言うて鰯の子ではない~までフルバージョンで唸ったのは、前日に「中村仲蔵」を演じたので古典を期待して来場したお客さんへのサービスだろう。
サウナの部屋に入ると、室温は94℃。5人掛けで三段腰掛があるが、本当は一番上の段が一番熱いのに、金井君も齋藤さんも知らないから、一番上の腰掛に座ってしまう…。一段で10℃体感温度が違うとか。
そして、熱波師の登場。熱したサウナストーンにアロマ水“眠りの森”をかけて、水蒸気を発生させて体感温度を上げて発汗作用を促進する。これをロウリュと呼ぶ。熱波師はタオルを大きく広げて、この水蒸気を仰ぎ、熱い熱気を利用客に送る。
このときの太福先生の演出がこの演題の肝で、それまで釈台に掛かっていたテーブル掛けを外し、それを熱波師のタオルに見立てて、思い切り仰ぐのだ。これでもか!というくらいに仰ぐ。これで客席の興奮が最高潮に達するのだ。
齋藤さんと金井君は、その熱風を肌で受け、水蒸気が彼らの身体を心地良く包んで、「幸せ」を感じるという…。サウナの醍醐味を節に載せて伝える太福先生の高座はまさに浪曲の新しい時代の夜明けと言っていい。65年ぶりの快挙に対し、攻めの姿勢を忘れない太福先生に拍手喝采であった。