柳枝のごぜんさま 春風亭柳枝「にかわ泥」、そして川上くんと中村くん 三遊亭萬橘「豊竹屋」

「柳枝のごぜんさま~春風亭柳枝勉強会」に行きました。「目黒のさんま」「にかわ泥」「禁酒番屋」の三席。

「にかわ泥」は上方落語の「仏師屋盗人」。上方の笑福亭の師匠に稽古をつけてもらったそうで、東京では演じ手がほとんどいない。

仏師の男の家に入った泥棒先生が凄むのだが、相手が一枚上手で落ち着き払っていて、泥棒先生がなめられているのが可笑しい。「これが目に入らないか!二尺八寸だぞ!」と刀を振りかざすが、「どう見ても一尺八寸しかないよ」。「怖くないのか!怖がれ!」に、ふざけて芝居台詞で怖がるところなど、完全に馬鹿にされている。

仏師の男はそんな泥棒先生を哀れに思い、小抽斗に一両二分入っているから、そのうちの一両を持って行っていきなと言って、泥棒先生はすごすごと一両を素直に貰う情けなさ。帰ろうとして反対方向の襖を開けてしまい、目の前に「大入道がいる!」と慌てて刀で首を落とすと、それは仏師が彫った羅漢像だった…。

田原町の仏具屋に頼まれて彫った羅漢像で、その手間賃として一両二分の収入があったのに!と男に文句を言われる泥棒先生。にかわで首をつなげるから鍋で温めろと仏師が命じるままに泥棒先生は手伝う。そして、羅漢像の首はつながったが、泥棒先生は貰った一両ではなく、にかわの入った鍋を持って帰って行く。その理由は…。江戸時代は十両盗むと首が飛ぶと言われたことをマクラに仕込んで、それが効果的にサゲにつながる。軽妙な噺運びが気持ち良かった。

夜は練馬に移動して「川上くんと中村くん~春風亭一之輔・三遊亭萬橘二人会」に行きました。一之輔師匠が「加賀の千代」と「蝦蟇の油」、萬橘師匠が「猫と金魚」と「豊竹屋」、開口一番は三遊亭東村山さんで「平林」だった。トークコーナーで特別ゲストとして、お・ぴーなっつ(林家きよ彦&鈴々舎美馬)が登場して♬寄席はバカンス(恋のバカンスの替え歌)を歌った。

一之輔師匠の「加賀の千代」。相変わらず、隠居の甚兵衛さん愛がすさまじい。「俺は世帯主だあ!お前のことを愛しているぞ!」と言う甚兵衛さんの声を聞いて、隠居は「甚兵衛さんが来たなあ!」と大喜びするところ。八円五、六十銭を借りるために「二十円貸してください」と頼むからくりを全て話してしまう甚兵衛さんを見て、隠居は「婆さん!写真に撮っておいて!」とするところ。愉しい。

「蝦蟇の油」。香具師が一商売した後に居酒屋で飲む気分を自分に喩えて、「浅草から鈴本へ移動するのに、2時間ほど余裕があって、350円のランチビールを飲んでしまう」と言うのが如何にも一之輔師匠らしい。ヘベレケになった香具師がもう一儲けしようと、「ご紹介する商品はカエルの汗です!」と口走るところ。筑波山が出ずに、千葉県房総半島の鋸山と言って、マザー牧場、そして地元の寺で不法に飼っていた虎が逃げ出した騒動をフジテレビ「スーパータイム」で逸見政孝と幸田シャーミンが伝えたという思い出まで遡るのが最高に可笑しい。

萬橘師匠の「猫と金魚」。番頭の発想が愉しい。猫の頭の上に金魚鉢を括りつけたらどうかとか。一日二匹の金魚を食べるとして一年で730匹、五年で3650匹、五十年だと3万5千匹を超える…金魚鉢にギュウギュウ詰め!満員電車みたいとか。金魚を湯殿の棚に「あげる」を「小麦粉をつけて揚げる?」とか。

「豊竹屋」。とざーい、東西、此の処、江戸長屋浄瑠璃戯れの段(笑)。去年の暮れの大晦日、借金取りに責められて、テンテコマイ、テンテコマイ。子どもの服を親が着て、ツンツルテン、ツンツルテン。春風亭一之輔、出たくもないのに出てるのは、ショーテン、ショーテン!テンテコマイやツンツルテンは定番だが、その他の萬橘師匠のオリジナリティ溢れるクスグリも面白かった。