【フロントランナー】演芸写真家 橘蓮二さん
朝日新聞12月2日朝刊「be on Saturday」で「フロントランナー 演芸写真家 橘蓮二さん」を読みました。
橘蓮二さんは演芸ファンにとっては大変馴染み深い方である。撮影されるお写真が見事であるのは勿論だが、プロデュースされる落語会などは大変に魅力的であるし、著作物などの文章も演芸に対する深い考察があり、素晴らしいと尊敬している。
プロデュース業を始めたのは8年ほど前からだそうだ。その後、肩書を「写真家」から「演芸写真家」に変えたという。「演芸が好きで、演者さんを尊敬して、演芸の役に立ちたい。これまで演芸の世界でいろいろな人にお世話になっているから」という熱い思いに打たれる。
もはやこの世界では押しも押されもせぬ存在という投げかけに、「成功や順調や安定という感覚は1ミリもない」という謙虚な気持ちが、撮影される写真やプロデュースされる落語会などに表れているのだと思う。「いつも誰にも相手にされないところから始まるのが僕の仕事です」という姿勢が誰からも愛される演芸写真家として存在できる理由なのだろう。
1995年に出版関係の人の紹介で、鈴本演芸場の当時の席亭である鈴木寧さんに「楽屋を撮りたい」というお願いをしたら、落語協会と芸人さん本人が許可すれば撮りに来て良いと出入りが許された。95年5月上席から楽屋の撮影がスタートした。
芸人さんたちに挨拶するばかりで、撮影するタイミングをつかめないでいたら、当時の古今亭圓菊師匠(二代目)が声を掛けてくれ、名刺をくださって、芸人さんたちに「みんな、仲良くしてあげてね」と言ってくれて、緊張した気持ちが楽になったという。先代の鈴本の席亭、それに先代の圓菊師匠は大恩人だと感謝の言葉を述べている。
楽屋の空気を読む。これはとても大切なことだ。ものすごく集中している人、仲間と喋ってリラックスしている人、様々だ。その姿を見て、その日に撮影するか、しないかを判断するという。その判断を間違えないようにすることを、毎日のように寄席の楽屋に通って自然と身に付けたそうだ。それはある意味、前座さんの修業に似ているかもしれないと橘さんが言うのを読んで、橘さんが撮影した写真の魅力の神髄が判ったような気がした。
高座は写真のためにあるのではなく、お客さんのためにある。だから、演者さんの集中力を削ってはいけない。至極当たり前のようなことだが、そのことが演芸会をプロデュースするのに役立っているという言葉に触れて、それは演芸に携わる人間すべての人々に共通して言えることなのだと再認識した。
一人の演芸ファンとして、橘蓮二さんが撮影される高座写真は勿論、プロデュースされる演芸会、そして出版される著作物に今後益々注目していきたいと思った。