俺たちの圓朝を聴け! 牡丹灯籠 第3回

「俺たちの圓朝を聴け! 牡丹灯籠」第3回に行きました。談春師匠と三三師匠がリレーで三遊亭圓朝作「牡丹灯籠」を演じる会もこれにて大団円である。

「紙入れ」立川談春/「牡丹灯籠 お峰殺し」柳家三三/中入り/「牡丹灯籠 関口屋強請り」立川談春/「粗忽の釘」柳家三三

三三師匠の「お峰殺し」。伴蔵の悪の顔がどんどん見えてきて、最後には女房お峰を殺害してしまうという…。栗橋宿に移り住んで、関口屋という荒物屋を立派な大店にして、以前の貧乏とは比べ物にならない裕福を享受しても、お峰は倹約の心を忘れず、針仕事で夜なべする真面目な女房なのに対し、伴蔵は金が出来ると笹屋という料理屋に通い、お国という亭主ある身の女中を妾同様にして、酒と女に溺れる。それは男と女の気性の違いなのか…。

でもお峰も悋気というのはある。久蔵にカマをかけて、亭主の伴蔵がお国という女に夢中になっている実態を詳細に聞き出せば、ハラワタが煮えくり返る思いになるのは当たり前だ。深夜に帰宅した伴蔵が寝酒の支度を頼むとプチン!と切れて、笹屋へ行けばいいだろう!お酌はお国さんにしてもらえばいい!と怒鳴るお峰に、伴蔵もビックリ、いやアタフタする様子が目に見える。

身寄り頼りがないお国の話し相手になっているだけだと弁解するも、お峰が伴蔵が渡した小遣いが二分、二両、三両、五両、そして二十両と釣り上がっていった事実を並べられたら、グーの音も出ない。お峰の「ただの悋気じゃない、相手の女は亭主持ち、しかも侍と聞く、もしものことがあったらと心配だ」という理屈にはただ平伏するしかない。

酒の上の間違い、出来心、別れるから許してくれと謝る伴蔵だが、お峰は「信じられない」。挙句には、その亭主にまとまった金を渡して別れてもらい、お前さんとお国さんで店を切り盛りすればいい、私は出ていく!と言う始末。苦労して、ようやくここまでこられたのに、もう愛想も小曾も尽き果てた、嫌なんだよ!と。

すると、伴蔵は開き直る。関口屋と言えば立派な大店というまでになった、そこの旦那がイロの一人や二人いてもいいだろう!と宣う。ここでしっかりしているのはお峰だ。江戸で貧乏暮らしをしていたときのことを忘れたのか?あのときは私のことを“女房大明神”とまで言っていたくせにと詰め寄る。伴蔵にはもはや理屈などない。お峰を打つ。

私は出ていく。その代わりに100両をおくれ。この栗橋でこういう暮らしが出来たのも私のお陰じゃないか。幽霊から100両貰って、萩原様のお札を剥がし、海音如来を抜き取った…。その一件を持ち出されると伴蔵はやはり謝るしかない。俺が出ていく。どうせお国も金目当てなんだ、一文無しになったら鼻にも引っ掛けない、そろそろ潮時だと思っていた、と。

何遍もこうして夫婦でやりとりしているうちに、二人は“人間が変わるって怖い”ということに気づく。「私を前のように大事にしてくれるなら、別れたくない」とお峰が言うと、伴蔵は「一からやり直そう!」と言い、その晩は収まった。翌日には幸手の祭りに夫婦で出掛け、出店で反物を見立てたり、料理屋で仲睦まじくやったりとったりして…以前のような仲の良い夫婦に戻るかに見えたが、さにあらず!伴蔵は心底悪い奴だった。

幸手の土手に海音如来の像を埋めてあると嘘をつき、「誰か見てやしないか?」と言って、お峰が背中を見せたところで、脇差でズブリと突く。正面を向いたところで、もう一突き。留めに喉を突いて、お峰の息の音を止めた。お峰の手が伴蔵の着物の裾を堅く握って離さないので、指を一本ずつ切り落とすというのが、伴蔵の残虐性を物語る。

談春師匠の「関口屋強請り」。「昔が自分を追い詰める」がキーワードになっている。検死が入ったが、お峰は追い剥ぎの襲われて殺されたという伴蔵の言い分が通る。だが、女中のおまきが熱でうなされ、「幽霊から100両貰って、お札を剥がし、海音如来の像を抜いて、萩原様を殺した…」といううわ言を言う。伴蔵の台詞、「縁は指と一緒に切った。お峰はなぜ俺に憑り付かないんだ。生半可な気持ちで人は殺していないんだ。やれるものなら、やってみろ」に、悪性を見る。

現われた幇間医者の山本志丈。散々悪さを働いて、医者に成りすましていたが、とうとう江戸にいられなくなったので、日光に向かう途中、幸手で偶然に患者を助け、名医と呼ばれている。「昔が人を追い詰めるね」とは、志丈の言葉だ。生来怠け者の伴蔵だが、お峰さんが頑張って支えて、勢いのある大店の関口屋を築いたという志丈の見立ては当たっている。それが、お峰さんが殺されたとは…と驚きを隠せない。

布団に寝ていたおまきが「志丈さん、お久しぶりです」と言ったのには、さらに驚いたことだろう。「幸手の土手で斬り殺された…そのときの痛みと言ったらない…」、この言葉で勘の良い志丈は察した。おまきに暇を出す。表へ出た途端、ケロッと治った。すると今度は番頭が…同様に措置すると治る。次々と奉公人に“お峰の怨念”が乗り移り、8人全員が残らず関口屋を去った。店に残されたのは、伴蔵と志丈の二人。

「君が一枚噛んでいる気がする」と志丈が切り出すと、伴蔵は「残らず話します」。根津の萩原新三郎を蹴殺し、新幡随院から白骨を掘り出して、人の形に並べた…。お露に憑り付かれて死んだという幕の裏をバラした。そして、金無垢の海音如来の像は、売れば300両にはなる価値のあるものだから、長屋の裏に埋めておいた、と。うわ言はすべて本当、人が2人死んでいる、黙っているのも心苦しい、2人も3人も同じこと…と伴蔵が言うと、志丈は「世の中にはこんな悪い奴がいるものだ。それを取り繕う奴は嫌いだ。スラスラと本当のことを言うのが気に入った」と返す。

伴蔵は口止め料というか、“お願い賃”として25両を志丈に渡す。そして、固めの盃を交わそうと、笹屋へ。そこに出てきたのは女中のお国だ。伴蔵に対し「この度はご愁傷様です」と述べると、志丈が「お久しぶりですな」と話しかける。驚いたお国は「旦那に話がある」と言って、伴蔵を別室に連れ出し、「あの山本志丈という男は嘘ばかり言う男だ。あの人を遠ざけた方がいい」と言う。

戻ってきた伴蔵に、今度は志丈が「あのお国という女は君のためにならない。どういう女か、知っていて深い仲になったのか?」。お国は飯島平左衛門の妾になったが、宮野辺源次郎という男と不義密通を働いた、そしてお国と源次郎とで飯島様を殺害し、逃亡しているところだ、飯島家再興を目指して孝助という男が仇討しようと諸国を経巡り歩いている、と。

翌日、関口屋に宮野辺源次郎が訪ねてくる。「家内が世話になっている。礼を言いたい」…「足の怪我が全快し、越後に旅立つ。ついては路銀を拝借したい」と言う。伴蔵は2両2分を用意するが、それでは不服のようで、「いかほど?」と尋ねると「一本だ」と言う。つまり、100両。とんでもない!と伴蔵が断ると、「お国が格別の贔屓を賜っているそうで。それで願い出ている。不服か?」。「まるでお国との間にワケがあるようにおっしゃるが」「そうだ。間男の廉による手切れ金だ」。

すると、伴蔵はここで開き直る。「妙な仲だったら、どうだっていうんだ?!」。表沙汰にするという返事に、「悪いが、そうトントンと事は運ばないんだよ。幼い頃から悪さを重ねて来た、首が三つあっても足りないくらいだ。悪いほうじゃあ、俺の方がちょっとは上手だぞ」。凄む伴蔵。「お国は元は飯島様の妾じゃないのか?いわば、てめえも盗人だ!餞別に25両もくれてやろうと思ったが、俺のシャバが立たない。首落としてみろ。こうなったら、一銭も出さないぞ。言いたいことがあったら、言ってみろ!」。

これには源次郎はビビッてしまう。2両2分でスゴスゴ帰ろうとしたが、25両に未練があったか、「この25両包みも下さらぬか?」と困った顔をして願い出るので、伴蔵は源次郎に25両もくれてやって、関口屋を追い出した。

伴蔵の見事な啖呵に志丈は感心した。伴蔵は「勝負はこれからだ。お前さんが言った闇とやらにケリをつけに行くか」。関口屋を売り払い、江戸へ乗り込む。

伴蔵が根津の長屋の裏に埋めた海音如来の像を掘り起こそうとしたとき、「御用だ!」の岡っ引きの声。伴蔵は高笑いし、「太く短くと思ったが、どうやら短いだけのようだ…お峰、本望か?」。そう叫んで、物語は幕を閉じた。

第1回の「お露新三郎」からスタートし、きょうの第3回の「関口屋強請り」まで、談春師匠と三三師匠のリレーという形で語り継がれた因果応報の物語。圓朝の怪談噺は、幽霊が怖いのではない、生きている人間が怖いのだと知らされた。素晴らしい企画であった。