浅草演芸ホール「にゅうおいらんず」、そして柳家喬太郎 牡丹灯籠 恋の闇路

浅草演芸ホール八月上席三日目昼の部に行きました。今席は大喜利が噺家バンド「にゅうおいらんず」のライブという特別興行。1996年に結成され、2006年からは毎年浅草演芸ホール八月上席での演奏を続け、今年で18年目になる。真夏の風物詩を今年も楽しんだ。

オープニングアクト 浅草ジンタ/「日の丸太郎 武者修業の巻」「喧嘩安兵衛」坂本頼光/「元犬」三遊亭あら馬/「反対俥」春風亭吉好/漫才 新宿カウボーイ/「松山鏡」柳亭小痴楽/「たがや」三遊亭遊史郎/漫談 ナオユキ/「青菜」三遊亭遊之介/「鰻屋」瀧川鯉昇/中入り/「皿屋敷」桂宮治/漫才 東京太・ゆめ子/「小言念仏」春風亭柳橋/「鷺取り」春風亭昇太/音曲 桂小すみ/「蜘蛛駕籠」三遊亭小遊三/大喜利バンド にゅうおいらんず

一曲目は♬セレソ・ローサ。にゅうおいらんずのメンバーは、芸人がリーダーの小遊三師匠(トランペット)、昇太師匠(トロンボーン)、柳橋師匠(バンジョー)、小すみ師匠(ピアノ)。落語芸術協会事務員のベン・片岡(ベース)。そこにプロの演奏家の高橋徹(ドラム)、片山士駿(ソプラノサックス)が加わる。

司会の柳橋師匠が「おぼつかないところをプロに支えてもらっている」とメンバー紹介のときに言っていたが、結成時からのメンバーである昇太師匠が「正確に言うと、最初は全員芸人だった。だけど何人かが亡くなってしまい、プロの方にお願いしたら、皮肉にも以前よりも音が良くなった」と笑っていた。

二曲目は♬ブルーライトヨコハマ。去年、昇太師匠が演奏し、替え歌も付けたら、好評だったので、今年も演奏することにしたとのこと。前座修行時代の思い出を読み込んだ歌詞が良い。街の灯が中途半端な浅草、ブルーライト浅草、お客が2人幸せよ、いつものように前座噺を浅草、ブルーライト浅草、私にください笑い声、喋っても喋っても小舟のように、お客は揺れて揺れてお客は夢の中、いつものように聴いているのよ兄弟子、ブルーライト兄弟子、降りたら小言をもう一度…。

三曲目は♬ラ・ヴィアン・ローズ。四曲目は♬お嫁においで(歌:小遊三)。「にゅうおいらんず」という名前は、デキシーランド・ジャズの本場、ニューオーリンズをもじったもの。そもそも、小遊三師匠が町の骨董屋で見つけた2万円のトランペットを購入し、自宅の部屋の飾りにしていた。でも、そのうちに「演奏したくなっちゃった」。で、昇太師匠を誘ってバンドを組むことになったそう。昇太師匠は高校時代、吹奏楽部。本当はトランペットをやりたかったが、小遊三師匠に「お前の師匠の柳昇さんはトロンボーンを吹いていたんだから、その伝統を継ぎなさい」と説得されたそう。

五曲目は♬セントルイス・ブルース。最後は♬聖者の行進。最後の演奏に宮治師匠が加わった。「全く演奏した経験がなかったが、兎に角、形から入ろうと思って」、銀座のヤマハで17万円でトランペットを購入したそうだ。「いつでも(小遊三師匠の)代わりができますよ!」とうそぶいていたのが、いかにも宮治師匠らしい。ご機嫌な演奏とお喋りで、50分間を楽しんだ。

夜は渋谷に移動して、「柳家喬太郎 牡丹灯籠 恋の闇路」に行きました。三遊亭圓朝作「怪談牡丹灯籠」より、「お露新三郎」と「お札はがし」を中入りを挟んでたっぷりと語ってくれた。

新三郎が山本志丈と亀戸の臥龍梅を見に行った後、飯島様の一人娘・お露が住む柳島の寮を訪ねたことが罪作りだ。山本は最初から二人を引き合わせようと考えていたのに、いざ二人が相思相愛になると、飯島様の手前、立場が難しくなると見て、暫く時間を置いてしまったことが因果となる。

女中のお米がお酌をして、それを受けて酒を嗜む新三郎の様子を隣りの部屋の襖の間からチラチラと気になって見ているお露の初々しさがいい。お米が社交辞令だろうが、「今晩こちらにお泊りになってもいいんですよ」と言うのに反応して、一瞬新三郎が泊まりたい空気を出すのも、これが恋の始まりなのか。

新三郎が厠に行って出てくるところで、お露が柄杓を持って待っているという図も、なんだかときめく。お互いに気になる関係であることを確認する作業のような。だから、新三郎もお露も「またお会いしたいですね」と本心で言っているのが伝わる。

どちらも夢に現(うつつ)にお互いのことを思い続け、想いは募る。新三郎は我慢できなくなって伴蔵に「釣りに行くから舟を出してくれ」と頼み、横川の川べりから柳島の寮の垣根を越えて、お露の部屋へ。お露もこれを招き入れ、嬉しい仲になるが、そこに飯島平左衛門が現われ…。実はこれは新三郎が舟の上で見た夢だったとなる。幻だったのか。だが、二人の恋路を証明するお露の母の形見の香箱の蓋は確かに舟の上にある不思議よ。何ともミステリーである。

後日、山本志丈によって焦がれ死にしたと聞かされたお露がお米を連れて新三郎の許へ、カランコロンと現れる。お互いに死んでいなかったことを喜び、今度こそ嬉しい仲になり、毎夜通って来る。逢瀬を楽しんでいるつもりだった新三郎だが、後見役の白鷗堂勇斎からの忠告もショッキングだ。

お前は死霊と情を通じているな。抱いていて、わからないのか。新三郎には確かにお露の肌が温かく、柔らかく感じられただけに、衝撃だろう。良石和尚の教えに従い、海音如来の像を身に付け、経を読み、家にはお札を貼った。お露はこの世の者ではないという事実を受け入れなくてはいけない。さぞ辛かったろう。

だが、伴蔵夫婦がお米から依頼され、お札を剥がしたことにより事態は激変する。「お露様、今宵は存分に新三郎様にお恨み申し上げください」と言うお米に対し、お露も「また新三郎様にお会いできるのね」と喜ぶ。新三郎はお露との恋を成就させることができた。しかしながら、二人は現世ではなく、あの世で添い遂げることになった。何と哀しい恋の闇路なのだろう。