隅田川馬石 お富与三郎~与話情浮名横櫛~「玄冶店」

鈴本演芸場6月中席三日目夜の部に行きました。今席は主任が隅田川馬石師匠で、「お富与三郎~与話情浮名横櫛」連続通し全七席と総集編三席相勤めます、という特別興行だ。都合がついたので、第三夜に行った。第四夜、第五夜、第七夜にも伺う予定だ。なんでも、鈴本での連続通し口演は平成8年6月の五街道雲助師匠の「名人長二」以来だそうだ。

「道灌」桃月庵ぼんぼり/「初天神」桃月庵黒酒/ジャグリング ストレート松浦/「長短」古今亭文菊/「蛇含草」橘家圓太郎/三味線漫談 林家あずみ/「無精床」林家しん平/「短命」春風亭一朝/中入り/漫才 風藤松原/「熱血!怪談部」林家彦いち/紙切り 林家楽一/「お富与三郎 玄冶店」隅田川馬石

黒酒さん、一味も二味も違う面白さ。凧揚げに夢中になっている父親も愉しい。ストレート松浦先生、定番。踊る傘、皿廻し。文菊師匠、いやらしいお坊さん。自称“つまらない男”だが、流行りの毒舌も世情を斬ることもできなくても、十分に噺が面白くて良い!

圓太郎師匠、ガスター10。八五郎が餅好きだと意固地になって餅を死ぬほど食うのが可笑しい。お染久松の曲食べ?も愉しい。あずみさん、文菊師匠の出方で。直接稽古を付けてもらったとか。他に稽古することがあるような。しん平師匠、ボウフラはみんな生きている~。

一朝師匠、イッチョウケンメイ。美人履くめえ。女の厄年、三十三。短命だろ!風藤松原先生、稲荷寿司剥いちゃいました。変態と言われて止めるのは本当の変態じゃないんだよ!彦いち師匠、体育会系。霊にはじまって、霊に終わる(笑)。楽一師匠、鋏試しは横綱土俵入り。注文でゲゲゲの鬼太郎、玄冶店、虹。

馬石師匠、三夜目。今業平と呼ばれるほどいい男だった与三郎はちょっとした間違いを起こし、木更津の藍屋吉右衛門のところに預かりとなった。が、土地の侠客、赤馬源左衛門の女房の横櫛お富といい仲になってしまう。その密会の現場を源左衛門と子分の海松杭(みるくい)の松蔵に取り押さえされ、なぶり殺しの目に遭ってしまう。お富は見るに見かねて、木更津の浜から海に飛び込んだ。

さあ、源左衛門が与三郎に止めを刺そうとしたとき、友人の江戸金が「ちょっと待ってくれ」と、これを止める。殺してしまったら、これでお終いだが、半殺しにして藍屋へ持って行けば、金になるし、親分の名も上がると説得したのだ。源左衛門は納得し、松蔵に命じて、血だらけの与三郎を古い俵に包み、藍屋へ持ち込んだ。

「江戸廻しの荷が届いた」と藍屋吉右衛門に見せ、源左衛門は侠客の男の顔に泥を塗られた、百両で買えと要求する。吉右衛門は黙って百両を渡して、俵を引き取る。中からは真っ赤な与三郎が出てきた。柳寛斎という名医に診せて、与三郎は一カ月で回復した。

江戸横山町伊豆屋の両親の許に返された与三郎。34か所の刀傷は残ったままで、化け物同様の見てくれだ。与三郎は申し訳なく思い、頭を丸めて64州廻国の旅に出ると申し出る。だが、父親はお前は役者じゃない、商人だ、商いに精を出してくれれば何の支障もないと優しい言葉を掛ける。その外見から、昼は店に閉じこもり、日が暮れると頬かぶりをして外に出る。男が良すぎるのは災難だと噂され、切られ与三、向こう傷の与三郎と渾名が付いた。

3年が経った。父親は与三郎に10両を渡し、薬研堀の縁日が出ているから出かけなさい、その後は柳橋に行って芸者でも揚げなさいと気を廻す。与三郎は薩摩絣の着物を着て、番頭に粋な姿ですねと言われながら、出掛けた。時刻は五つ半、夜9時。与三郎は薬研堀の縁日をふらついた後、どうしようか迷う。

父親は気に入った女でもいれば女房にするのもいい、と柳橋で芸者遊びを勧めたが、とてもそんな気分にはなれない。お富が生きていれば…と思うばかりだ。このまま店に帰ろうと横山町の裏通りを歩いていたら、植木を抱えた女と通りすがった。女もこちらを振り返る。お富に良く似ている、狐か狸が化かしているのか?気になって、後を追った。

女が入ったのは、玄冶店の黒板塀に見越しの松の一軒。着替えを済ませ、火鉢の前で一服している。「旦那も用で来ないし、下女も宿下がりでいない、つまらない」・・・「さっき、横山町の裏通りで与三さんに良く似た男がいた。私のせいでなぶり殺しにされ、本当にすまない。私は海で溺れているところを船に助けられて命拾いをした。きっと冥途で恨んでいるだろう」。旦那に内緒で拵えた与三郎の位牌に向かって、念仏を唱え、回向する。

格子の家を覗いている与三郎を、このあたりのならず者、蝙蝠の安と目玉の富八という無宿人が見つける。頬かぶりをした与三郎を同業者と思い込み、声を掛ける。自分たちはこれからこの家に入って「柄のないところに柄をすえて、小遣いを稼ぐ」ので、その後に仕事を欲しいと安が頼むと、与三郎は勘違いされていることに気づく。

誤解を解くために頬かぶりを取り、顔を見せると、安は「あの横山町の若旦那?向こう傷の与三さん?」。安と富八が強請りをするなら、「お仲間として一緒に、談判したい」と逆に与三郎が頼む。安は大立者が控えていれば仕事がしやすいと引き受ける。

安、富八、そして与三郎の3人で家に入る。お富に向かって、安は「親分の倅がイタチに引っ掛かれて傷を負ったので、湯治に行きたい。草鞋銭を貰いたい」と脅す。すると、お富は200文を出すが、それで安が承知するわけがない。「俺たちは乞食じゃない。こんな端金、受け取れない」と強気に出る。

するとお富も黙ってはいない。「こう見えても綺麗な身体。立派な亭主がいる」と言って、帰っておくれ!と追い出そうとする。すると、安はここが与三郎の出番とばかりに「若親分の話を聞いてやってくれ」。

与三郎が「いやさぁ、お富、久しぶりだなぁ」で始まる啖呵を切る。見事な芝居台詞だ。拍手!ここで馬石師匠は「これはお芝居の方でして、落語では与三郎は3年ぶりの再会にオロオロするばかりです」としたのが可笑しかった。

そして、与三郎とお富は知らず知らずのうちに悪の道にはまっていくのですが、それについてはまた明晩お話しします、と切った。明日が楽しみである。