【プロフェッショナル 生花店主・東信】命の花、心で生かす(1)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 生花店主・東信」を観ました。(2017年8月28日放送)
東信(あずま・まこと)さんは当代一と言われる「フルオーダーメイド」の花屋。その客だけのために花を仕入れ、一点ものの花束を作る。予算は三千円から数百万円まで様々。白衣に金髪で一見近寄り難いが、花には滅法優しい。花を愛する異端の花屋、41歳(放送当時)。その花は異様、だが美しい。世界からオファーが殺到する。CM、パリコレ…。だが、原点はどこまでも熱い花屋魂。東さんの花は唯一無二。心に深く突き刺さる。そんなドキュメンタリーに感動した。(以下、敬称略)
東の店は東京・青山にある。朝7時、東は愛用の革ジャンで現れた。いの一番に向かったのは、店ではなく事務所。欠かせない日課がある。うさぎのうーこちゃんの餌やり。店は地下一階。驚いたことに花は一本もない。
大体、仕入れの日はこの状態で、いつも。基本的にはフルオーダーだから。
東が手掛けるのは極めて珍しいフルオーダーメイドの花屋。客から依頼を受け、必要な花だけ、その都度仕入れる。余分な花は一つもない。
花が届くとすぐさま水を飲ませる。花を少しでもいい状態に保つためだ。
温度は15℃から20℃。湿度は大体40%から50%に保っている。とにかく、やれることは全部やっておこうと。あくまでも花が主役。
しかし、東のこだわりは常識にとどまらない。店の至る所にスピーカーがあり、そこから奥多摩の森の音が流れている。
音を通した振動がいくので、水の濁りもそんなにない。花のもちが全然違う。
花に取り憑かれた男、東信。心に刻む流儀がある。殺して生かす。
少し乱暴ですけど、殺して生かしていく。もともと野に生えている花って十分美しい。それを人間のエゴで切って、花の命を1本1本絶っているわけですから。心で生かさなきゃいけない。人々の心に植え付けて生かしていく。作り手としての覚悟です。
頂いた花の命を無駄にしない。そのために東は一度見たら忘れられない花束を自らに課す。花の命が潰えても、人の心で花は生き続けると考える。目指すは唯一無二。瞼に焼き付く花。
色や形、原産地の異なる花をあえて並べることで違和感を際立たせる。さらにギョッとするほど花の密度を高める。命を凝縮し、鮮烈な印象を残すためだ。
東が語る。
目と心で残そうよ、みたいな。「わぁ」って、「きれい」って、引き込まれるように受け取った方の心で花が生き続けていく。見る人を感動させなきゃいけない。心を震わせなきゃいけない。感動を与えないと生かしたことにならない。
一人の女性がやって来た。「使い道は?」「友だちが転職でニューヨークに行っちゃう」。海外に就職する親友にとびっきりの花束でエールを送りたいという。新天地に挑む友に贈る花。
2日後、製作に取り掛かった。東がメインとして仕入れたのは、力強いラン。依頼した女性は口にしなかったが、海外へ行く友人は人知れず不安を抱いているかもしれない。明るい花を中心に組み立てることで、もっと力強く背中を押してあげたい。
「世界に羽ばたけ」というメッセージをこめて。心に花は届くか。
出来上がった花束を持って、依頼主が送別会の席で友人にその花束を渡すと、友人は思わず涙が込み上げてきた。そしてこう言った。
近づくと本当にちょっと不安で、こうやって集まってくれる友達も日本だといるし。離れるのは怖いなというのはゼロではないけど、向こうでも皆のことを思って頑張りたいです。
東の狙いが見事に当たった。
つづく