【ひざふに二人会】弁財亭和泉、春風亭柳枝という全く異なった才能に巡り合えたことに感謝!
江戸東京博物館小ホールで「弁財亭和泉・春風亭柳枝ひざふに二人会」を開催しました。(2022・02・13)
江戸東京博物館が今年4月から大規模改修に入り、3月いっぱいでこの小ホールもしばらく使えなくなる。そのため、この二人会も一旦休止することを、和泉師匠と柳枝師匠と話し合い、決めた。一昨年の7月にお江戸日本橋亭で第1回を開き、第2回以降は江戸博に会場を移し、その間にお二人は真打に昇進し、そして今回が第6回である。残念であるが、仕方がない。
お二人は全くタイプの違う噺家であるが、どちらもこれからの落語界を背負って立つ逸材である。和泉師匠は女流の新作落語家のトップランナーとして、鋭く現代社会を切り取りながら、ユーモアに包んだ新作を今後沢山創っていくことだろう。柳枝師匠は古典の本寸法を巧みに、かつ親しみやすく演じる噺家として、ぐんぐん成長し、柳枝という名跡に負けるどころか、さらに大きくしていくと思う。
お二人とは、形は違うかもしれないが、また何年か後に一緒に落語会を開きたいと強く望んでいるし、お二人も「このコロナ禍が完全に開けて、時間を置いて、焦らずにやりましょう」と約束してくれた。涙が出るほど嬉しい限りである。
林家きよ彦「あこがれ」
二ツ目になったばかりだが、早くも輝き出した。新作の着眼点が良い。北海道の人間が東京の生活に憧れを感じるのは一般的だが、果たしてそうなのか。中目黒のレストランで食事をすること、単館上映のミニシアターで映画を観ること、少し古いがタピオカドリンクを買うために行列を作ること。ここに「憧れ」という価値を見出すことに、さりげない疑問を投げかけているのが良い。
北海道で、そのロケーションゆえに国際映画祭が開かれたり、自然を相手にカヌーやスノボーやキャンプを楽しんだり、大地の恵みである無農薬の野菜やオーガニックワインを味わうことができたり、その魅力は東京では体験できない価値のあるものだということを笑いに包んで教えてくれる。
弁財亭和泉「甲府ぃ」
叔父夫婦に書置きを残し、身延山に願掛けをして、江戸で立身出世をしようと志を持って出てきた善吉の真面目で一生懸命な人柄がよく出ている。その善吉を抱え、自分の息子のように可愛く思う豆腐屋夫婦との交流に、心洗われる思いがした。娘のお花が惚れるのも当然のことだし、豆腐の商いでお得意さんがどんどん増えていく様子もさもありなんと思う。和泉師匠の語り口が、古典新作問わず心に響く。
春風亭柳枝「七段目」
この二人会では、6回すべて、太田そのさんがお囃子を担当してくれた。彼女の三味線を生かした演目を選んだことを嬉しく思う。柳枝師匠は芝居が好きで、時間が空くと歌舞伎座にも足を運ぶ。そういう下地がしっかり出来ているから、旦那と若旦那のやりとり、それに若旦那と定吉の芝居ごっこも、より本格的なものになり面白い。
春風亭柳枝「迷子の子」(弁財亭和泉・作)
和泉師匠が山崎豊子原作の「大地の子」のドラマ化を若干意識した、人情っぽいところがある作品だ。全体としてはユーモアに溢れているのだけれども、51歳のノリユキさんがテーマパークの迷子センターに、「45年前に東京駅で離れ離れになった父親」を呼び出してくれと頼む事情にキュンとなる。そして、現れたお父さんと再会…。和泉テーストの台本を大事にしながら、柳枝師匠の言葉と演出で、また別の味わいを醸し出してくれたことに感謝。
弁財亭和泉「謎の親戚」
父親の法事の度に会う「謎の叔母さん」。会話を重ねるごとに、キーワードが増えていって、謎が解けるかと思うのだが。大正琴、ベリーダンス、ママさんコーラス、スポーツ吹き矢…???居ても立っても居られなくて、次郎叔父さんに訊きに行ったら…。日常生活のなかの「あるある」を題材に新作を構築する和泉師匠の才能に乾杯!