錦秋文楽「本朝廿四孝」 桐竹勘十郎のダイナミックな奥庭狐火の段、吉田玉助の勝頼の肚を見せる十種香の段

国立文楽劇場で「錦秋文楽公演第3部」を観ました。(2020・11・18)

「本朝廿四孝」が観たくて、大阪まで足を運んだ。文楽公演はコロナ禍以来、9月に東京公演から再開したが、本家の大阪では4月の「義経千本桜」通し狂言が中止になったから、1月の新春公演以来実に5カ月ぶりの文楽公演だ。「本朝廿四孝」は八重垣姫を勘十郎さんが遣い、蓑作実は武田勝頼を玉助さんが遣うというので、足を運んだ。しかも、十種香の段を千歳太夫さん、奥庭狐火の段を織太夫さんの浄瑠璃というのだから、これは期待大である。果たして、期待を大きく上回る素晴らしさであった。人気演目の理由もよくわかるし、それをこの布陣で演られると、さらにその面白さは抜群だ。

【十種香の段】

すごいフランクに書くと、この四段目は八重垣姫と腰元・濡衣との蓑作実は勝頼をめぐる恋愛バトル。八重垣姫が許婚の勝頼が切腹したので、十種の香をブレンドして焚き、回向するが。そこに勝頼と瓜二つの蓑作が現れ、恋の炎が再点火。何も知らずに、濡衣に仲立ちを頼んだら、蓑作が本物の勝頼だと知って、猛アプローチ!ちなみに八重垣姫は長尾(上杉)謙信の娘だから、深窓の令嬢なんですが。

二人がラブラブになったところで、謙信は蓑作に塩尻まで遣いを命じる。しかし、それは蓑作は勝頼だとわかっていて、その道中で討つという謙信の作戦。武田と上杉は敵対関係だからね。じゃあ、なんで娘を嫁にしようとしたのか、そこがよくわからないけど。

【奥庭狐火の段】

猛烈に勝頼を愛する八重垣姫は勝頼を助けたいと諏訪法性の兜に祈願。この兜がこの狂言の結構キーになるんだ。元々は武田家の所有物だったのに、上杉家に奪われ争いに。その和解として、八重垣姫と勝頼を結婚させましょうということなんだけど、ここも三段目の床本を読まないとわからないので、すみません。とにかくキーになる。

兜のご神体が狐!だから、八重垣姫は狐の霊が乗り移っちゃう。で、飛ぶが如くに、冬の凍る諏訪湖を渡っていく。この狐に乗り移るという一点をダイナミックに人形と床で魅せてくれるのがこの段。

それまでの「赤い着物バージョン」の八重垣姫人形とは別に、「白い着物バージョン」の八重垣姫人形を準備しておき、狐が乗り移った瞬間に、主遣い(勘十郎)が素早く持ち手を替える仕掛け。言葉にすると簡単そうだが、一体の人形を三人で遣っているから、タイミングの取り方や三人の立ち位置がすごく難しいはずだ。

赤八重垣と白八重垣は、主遣いは勘十郎さんが両方やるが、左遣いと足遣いは別の人が担当する。観客からは見えないように、そのバトンタッチをスムースにやっているのがすごい。狐が憑いて諏訪湖を渡っていく狂乱の八重垣姫を、迫力と恋の情熱たっぷりに遣う様子は、まさに「圧巻」とはこのために使う言葉だと思った。

白八重垣は、普段は顔出ししない左遣いと足遣いも顔を出して遣う、いわゆる「出遣い」というのも特徴。また、三味線で狐の足音や動き、鳴き声も表現していて、鶴澤藤蔵さん、寛太郎さんもお見事だったし、前半部分は清公さんの琴も入り、舞台効果音の重要な役割を担っていた。

あと、これは終演後に玉助さんから伺ったことだが、蓑作実は勝頼はスパイをしているわけで、しかも八重垣姫という敵の女性に恋い焦がれられている。ここの勝頼の肚をしっかりみせるのが人形遣いの大切な役割だとおっしゃっていた。腰を入れ、微動だにしない。これを自然に身体全体からできるようになるためには、まだまだ修行が大切とのことだった。

八重垣姫を中心とした派手な部分に身を奪われがちだけれども、勝頼がジッと動かないという地味な部分にも注目すると、もっと文楽が面白くなるのだと思った。