錦秋十月大歌舞伎「義経千本桜 川連法眼館」「渡海屋・大物浦」、そして「盛綱陣屋」

錦秋十月大歌舞伎に行きました。

第一部 湧昇水鯉滝 鯉つかみ/義経千本桜 川連法眼館

第二部 近江源氏先陣館 盛綱陣屋/山帰強桔梗

第三部 義経千本桜 渡海屋・大物浦/屋敷娘/近江のお兼

「川連法眼館」。源九郎狐に八代目菊五郎、義経に七代目菊五郎、静御前に雀右衛門。狐親子の情愛を丁寧に描く。

静御前が初音の鼓を叩き、姿を現した狐忠信に脇差を抜いて打ち掛かり、正体を明かすように迫ったときに観念した忠信が素性を語る件。桓武天皇の御代、雨乞いの儀式のために作られた初音の鼓に夫婦の狐の生き皮が用いられ、自分はその狐の子である。初音の鼓が義経に与えられたのを機に、忠信に姿を変え、静御前を守護しながら、親にも等しい鼓に付き従った…。義経や静御前を欺いたことを詫びながらも、親を慕う気持ちを判ってほしいと乞い願うところに哀れを感じる。

この経緯を陰で聞いていた義経が、源九郎という自らの名を与えた子狐の身の上と、肉親の愛に恵まれずに育った我が身を重ね合わせるのが、この幕の一番の眼目だろう。「本物の忠信に迷惑がかかるから古巣に戻れ」という親狐からのメッセージを受けて源九郎狐は姿を消していたが、義経が「前世からの因縁」を嘆いたのを聞いて再び現れる。すると、義経は源九郎狐に最高のプレゼントを贈る。彼の孝心と静御前を守護した功に報いるために、初音の鼓を与えたのだ。嬉しそうに鼓と戯れる源九郎狐が愛しい幕切れだった。

「盛綱陣屋」。仁左衛門演じる佐々木盛綱は弟の高綱と敵味方に分かれてしまった。だが、孝太郎の高綱妻の篝火、種之助の高綱一子小四郎の気持ちを慮る心情がよく伝わってきた。

北条時政がやって来ての、「高綱の首」実験。盛綱が首桶の蓋を開けた途端に、小四郎が自らの腹に刀を突き立てた。その首が高綱でない贋首であることは気づいたが、「高綱の首」であると盛綱は時政に言上する。そして、時政が去った後で、篝火を呼び寄せ、小四郎と最期の対面を許し、「高綱夫婦の周到な計略」が見事に成就したと讃える。

小四郎が贋首を父の首と言って自害したのは、時政に本物であると信じさせようという高綱の策略と読んだ盛綱は自らも死を覚悟して贋首を本物と言って、時政を欺いたのだと語る。父の計略成就のために命を捨てた小四郎を褒め讃える。その場には盛綱と高綱の母の微妙、盛綱妻の早瀬、そして高綱妻の篝火がいて、小四郎の悲運な身の上を思って嘆き合う。戦いの世の無常を感じる一幕だった。

「渡海屋・大物浦」。渡海屋銀平実は新中納言知盛に松緑、女房お柳実は典侍の局に時蔵。この二人が偽装夫婦となって娘お安実は安徳帝を守護しようとする強い思いが見どころだ。

敵対する義経は銀平が知盛であること、そして知盛の計略を察知していて、知盛勢は敗北する。典侍の局は安徳帝に事の経緯を話し、官女たちは次々と入水、自らも安徳帝を抱いて海へ身投げしようとするが、義経家臣に入水を阻まれる。満身創痍の知盛が安徳帝の行方を追って大物浦に到着すると、そこに義経が現れて「安徳帝を必ず守護するので安心せよ」と諭すのだ。それでも知盛は義経一行に立ち向かい、一門の恨みを晴らそうとする。

ここで驚くのは安徳帝の振る舞いだ。知盛のこれまでの忠義に感謝した上で、義経の情けを仇に思うなと言うのだ。幼少ながらも思慮深い言葉に知盛と典侍の局は心打たれる。典侍の局は懐剣を抜き、自害する。知盛も覚悟を決まる。自分たちがこのような苦難に遭うのは、亡き父の平清盛が帝の外戚の地位を利用し、横暴の限りを尽くした報いだと覚るのである。

碇綱を身に付け、大碇を担ぎあげて海へと身を投げる知盛の壮絶な最期。それを見届けた義経は安徳帝を供奉して立ち去る。知盛の冥福を祈って弁慶が法螺貝を吹く音が平家物語の諸行無常の響きありを想起させた。