立川寸志真打昇進披露落語会「妾馬」、そして弁財亭和泉の“新”新作びゅーびゅー「気持ちの問題」「二人の秘密」

立川寸志真打昇進披露落語会に行きました。
「洒落番頭」立川公四楼/「ぷるぷる」立川吉笑/「片棒」立川龍志/中入り/口上/「宮戸川」立川談春/「妾馬」立川寸志
口上の司会は吉笑師匠。前座時代、文字助師匠に引っ叩かれた同志(笑)と紹介。プロフィールで、会社員時代の93年に育児雑誌の名前の社内公募で「たまごくらぶ」「ひよこくらぶ」を提案し採用されたと紹介し、「その功績でこの度見事に真打昇進となりました」と冗談を飛ばす。
談春師匠。私は66年生まれ。寸志が67年生まれと聞いて、「一歳しか違わないのか」と驚いた、と。44歳で入門し、59歳で真打昇進。「伸びしろはないです。そんなに落語は甘くない」と言いながら、「でも彼しか出来ない落語がある」。40代で入門し、我慢したこと、悲しかったこと、逆に嬉しかったこと、忘れられないことがきっとある。それは10代で入門した「子飼いの落語家」では得られないものだと思う。人生をやり直して、こんな生き方もあるんだと示してくれた。きっとそういう彼にしか出来ない落語があり、それに期待すると結んだ。
龍志師匠。吉笑師匠から「鼠穴から義眼まで幅広いネタを演じる」と紹介され、「義眼の龍志です」。一流企業で働いてきただけあって、「気遣いのある人」。でも、「コンビーフが美味しい」と言ったからと言って、毎回コンビーフをお歳暮に持って来るのはやめてほしい…と笑わせた。大輪の花を咲かせてほしい。太く短く生きてくださいと激励した。
談四楼師匠。10数年前に「落語がやりたい」と言って来た。自分を噺に合わせるのは上手い。だから、何とかなるだろうと思っていたが、何とかなった。良い弟子です。このままいけると思っていますと讃えると同時に、(現在、病気で高座に上がれないが)来年には皆さんと高座でお目にかかりたいと意欲を見せた。
寸志師匠の「妾馬」。お鶴の方様お兄上、八五郎に温かさ、優しさがよく表現されていたと思う。酔っ払った八五郎が殿様に「お鶴、いい子でしょ?ニコニコしていて、まめに働く。あっしとは似ても似つかないと言われるけど、似ているところもあるんだ。表裏がないところ。死んだ親父が嘘だけはつくなと言っていた。御世取りを産んだからって、打っ棄らずに、生涯可愛がってくださいよ」。
殿様の隣にお鶴を見つけたときもそうだ。「綺麗になったな。わからなかった。親父が早くに死んで、兄ちゃんがしっかりしなきゃいけないのに、できなくてごめんな。いい着物やいい帯を持たせたい、綺麗なナリをさせてやりたい。その気持ちは誰にも負けなかったんだぞ。おめでとう」。
母親が初孫を抱いたり、見たりすることができない、「身分の違いは悲しい」と嘆いている件。「孫の顔を見ないうちには死ねない」と言っている、おふくろをここに呼んでやってくれないか。殿様に「頼みます。この通りだ。お願いします」と頭を下げる八五郎の優しさ。「思い残すことなく、逝ってもらいたい」とまで言う熱意に感服する。願いを叶えると殿様が言ってくれると、八五郎はホッとした様子で「肩の荷が下りた。ありがとうございます。このことをずっと考えていて、酒が進まなかったんだ」。あんなに「美味い、美味い」と飲んでいたのに?というところが、また笑いを誘う。人情味溢れる兄貴をきちんと描いた素敵な高座だった。
「弁財亭和泉の“新”新作びゅーびゅー」に行きました。「女の鞄」「フォーリン・ロボ」「気持ちの問題」「二人の秘密」の四席。
「女の鞄」は従来の噺をNHKラジオ「真打ち競演」収録用に書き換えたバージョン。致し方ないことだが、公共放送NHKゆえに登録商標など放送コードに引っ掛かる固有名詞を他の単語に置き換えている。「ヤングジャンプ」が「きょうの健康」とか、虎屋の羊羹は普通名詞の羊羹とか、些細なことかもしれないが、そうすることによって新作落語の持つパンチ力が和らいでしまうのは残念だ。ちなみに大好きな「女帝小池百合子」も太宰治に換えられていた。でも、妻が肩が凝ると嘆いているパンパンになった鞄の中身を詮索すると、必要あるのか?と夫が不思議に思うものが次々出てきて、その「必要なもの」を別物に置き換えても何の支障もなかった…という皮肉な可笑しみは褪せていない。傑作である。
「フォーリン・ロボ」は古今亭志ん五作品。35歳にして彼女のいないヨシダジロウのところに理想の彼女がやって来た。古風で、家庭的で、料理上手で、ぽっちゃり小柄な年増の女性。だが、それはロボットというところが面白い。無料で方言のオプションがついていて、その面白さを増幅しているのもいい。サトミと名付けた彼女とお気に入りの喫茶店に行こうとしたら臨時休業で、サトミがスマホを持って「OK!グーグル!」と言って近所のいい感じの純喫茶を検索するところ、可笑しかった。そして、後半は和泉師匠の独自アレンジが加わって新展開となる…フィジカルAIという言葉も飛び出して、痛快な一席に仕上がっていた。
「気持ちの問題」は今年の創作。パパの運転でママとショウちゃんの三人家族は話題の日本一の道の駅へドライブに行くが…。お目当ての「期間限定、土日限定、1日200個」のハロウィンおやき…2個しか残っていなくて、パパは「普通のかぼちゃおやき」を食べることになるが、店員のおばちゃんによれば「どっちも同じよ」。ママの「普段より増量でカボチャがゴロゴロ入っているのでは」の質問に、「手作りだからね。作るパートさん次第で量はまちまち」という答え。それでも、ママは「ハロウィンシール」が貼られた限定商品にしがみつくところ、皮肉が効いていて可笑しい。気持ちの問題なのである。
「二人の秘密」。通常、新作びゅーびゅーは三席なのだが、「気持ちの問題」を演じ終わったところで、「きょうは特別にもう一席演りたい」。先日亡くなった、らくごカフェの創業者の青木伸広さんの追悼だ。和泉師匠が二ツ目になったばかりの頃(当時は三遊亭粋歌)に、現在の三遊亭れん生師匠(当時は三遊亭玉々丈)と二人でらくごカフェで「すいすいたまたま」という勉強会を開催していた。そのときに作ったのが「二人の秘密」で、ネタおろしした後に青木さんが褒めてくれて色々とアドバイスもくれた。思い出の作品だそうだ。
名作である。認知症になってしまった夫の介護をしている妻のことを、夫はお手伝いに来てくれているタキエさんという女性だと思っている。妻は10年前に餅を喉に詰まらせて死んでしまったことになっている。その夫が“タキエさん”に対し、お見合いで結婚したつまらない女だったが、毎日ワイシャツにアイロンをかけてくれるなど、妻としてしっかりと家事をやってくれた、生きているときは「ありがとう」と言えなかったが、本当に感謝していると振り返るところ、涙がこぼれる。
そして、これまで女性を好きになったことはなかったが、“タキエさん”のことを初めて好きになった、一緒になってくれないかとプロポーズをする。妻としては複雑な心境な気持ちだろう。だが、この夫は真剣に私のことを慕ってくれていると思うと悪い気持ちではないだろう。いや、寧ろ嬉しかったのではないか。「昭和の感覚」と人は笑うかもしれないが、僕は老々介護の中に存在する夫婦愛に深く感動するのである。

