立川笑二ひとり会「浜野矩随」、そしてネタおろしのぼランド 昔昔亭昇「ごっちゃんです」

「立川笑二ひとり会」に行きました。「長短」「すきなひと」「浜野矩随」の三席。
「浜野矩随」。アレンジが素晴らしい。矩随は最初から名人だった。父の矩安は若狭屋に見いだされて名人と崇められた。しかし、若狭屋の二代目は目が利かず、矩随の優れた才能を見抜けなかった。そのことを判らせるために、矩随の母が策を練って、矩随は世間にきちんと名人として認められるようになったという筋書きである。
矩安は基本に忠実な正攻法の名人だった。息子の矩随はさらに創意工夫を凝らす、その上をいく名人だったという設定である。足が三本の馬は、野を駆ける速さを表現するものであり、決して居眠りして足を一本切り落としたわけではない。
だが、二代目若狭屋は「そんな工夫は要らないんだ」と言う。矩随の彫ってきたものは全て何も見ずに自動的に一分を渡し、みかん箱に放りこんでしまう。お前の彫ったものはゴミだという。ただ、父である矩安には親父の代に大変な恩義があるから、「義理で」一分くれてやっているのだと言う。これまでのモノは恥ずかしくて店に並べることができない。暖簾に傷がつくとまで言う。もっと真っ当なモノを彫って来れば、「矩安の息子の作」として売れる、と。
これを受けて、矩随は空飛ぶ龍を彫った。だが、それを見た母親は「どうしちまったんだ!?こんなものは他の人間でも彫れる。お前にしか出来ない仕事があるだろう」と叱る。だが、矩随はそれでは食っていけない、生きていくために彫ったのだと言う。すると、母親は「嫌な想いをしてまで彫るはことない。そんなものは見たくない。やめればいい。生きていくためなら、諦めて死んでしまった方が良い」と言う。
おっかさんは若狭屋さんに食べさせてもらうから、安心して「死になさい」。ただ一つ、お願いがある。死ぬ前に何か一つ、私に彫っておくれ。矩随は七晩かけて、観音様を彫った。これを見て、母親は「当たり前の観音様だね。何の工夫もしていない。お前らしくない」と言いつつ、これを若狭屋に持っていけと命じる。「売りに行くんじゃない。見せつけるんだ。盲人が涙を流す品だ。これだけのものを彫れる職人をお前は殺すのかと言ってやれ」。水盃を交わし、家を出る矩随。
観音様を見て、若狭屋は「残っていたのかい。頭が下がる思いだ。名人の仕事はこういうことをいうんだ。工夫は要らない。当たり前に彫ってこれだけのものが彫れる。それが名人の仕事だ」。いくらで譲ってくれるかと訊く若狭屋に、矩随は「これは売り物じゃない。私が彫ったのだ」と言う。「こんなものが彫れるわけがない」と言う若狭屋に、「私の全てを詰め込んだ。母への置き土産なんだ」。こんなものはいくらでも彫れる、でもやりたくない、あなたの言う「ゴミ」を彫りたいのだ、覚悟はできている。そう言って、水盃のことを話す。
おっかさんは死ぬ気じゃないのか、と若狭屋に言われて、急いで帰宅するが、母親は死んではいなかった。それは若狭屋を誘き出す作戦だった。果たして駆け付けた若狭屋に母親は言う。「だから、お前は駄目なんだ。目が利かない。矩安と矩随の区別もつかない。先代の若狭屋さんには恩義がある。義理で付き合ってきたのはこっちの方だよ!」。
これまで矩随が彫ってきて、みかん箱に放りこまれていた腰元彫を店に並べると、どんどん高値で売れていった。二代目若狭屋は「自分が間違っていた」と改心し、矩随母子に詫びを入れた。そして、矩随はその後も名人に名を欲しいままにしたという…。笑二さんらしい説得力のある改作、素晴らしい。
「ネタおろしのぼランド~昔昔亭昇独演会」に行きました。「ぞろぞろ」「皿屋敷」「ごっちゃんです」の三席。
「ごっちゃんです」は新作ネタおろし。大相撲を題材にしながら昇さんらしいファンタジーの世界を構築していて、面白かった。トラノショウ部屋に入門したコスギ君はトラノワカという四股名をもらう。先輩は二人で、十両のトラノヤマと幕下のトラノフジ。トラノワカはトラノフジに買い物を頼まれ、トラノヤマ関に何か買ってほしいものはあるかと訊ねるが、何を言っているのか聞き取れない。実は力士は大銀杏を結うと、チャン語を話すようになり、それを理解するのに時間がかかるという…。チャンチャチャンゴコチャンコ。これが「シュークリーム3個」買って来てくれという意味だとは!だが、次第に慣れて、トラノワカはトラノヤマ関に人生相談したり、一緒にカラオケに行って歌ったりすることまでできるようになったというのが、まず面白い。
ある日、大地震が起き、ロッカク理事長が力士を国技館に緊急召集する。初代横綱アカシシガノスケの父ヤキノスケが大昔、大鯰(おおなまず)を封印するために要石を使って、地震を鎮めた。その代償として、関取はチャン語を喋ることしか出来なくなってしまったのだ。このままだと、日本人は全員、鼻の下にナマズの髭が生えてしまうという…。
ロッカク理事長は国技館にある要石に横綱の張り手を打ち込むことで、地震を鎮めたいと考えたが、横綱はモンゴルにサッカーをしに行ってしまっていない。どうしたものか?と悩んでいたら、天から聖マリアル4世が降りてきて、新人力士のトラノワカを関取天使に任命する。そして、トラノワカは日本を救うために、ドスコイ!と勢いよく要石に張り手を打ち込むと、地震は収まり、危機は回避できたという…。
相撲の起源の神様といわれる建御雷神(タケミカヅチノミコト)が霊石である要石によって大鯰を退治したという神話も踏まえて昇さんが創作した奇想天外なファンタジー落語。拍手喝采だった。

