【プロフェッショナル】いつも厨房から家族を思って スーパー総菜部長・梶原正子

NHK総合で「プロフェッショナル いつも厨房から家族を思って スーパー総菜部長・梶原正子」を観ました。
福岡と長崎に4店舗を持つローカルスーパーチェーンのダイキョウバリューで総菜部長をしている女性に密着取材したドキュメンタリーだ。彼女は全国スーパーマーケット協会主催の「お弁当お惣菜大賞」で4年連続(2022-25)で最優秀賞を受賞している。
早朝4時半に出勤、9時までに40品目の調理をする。ポテトサラダは通常イモのペーストを使用するが、梶原はジャガイモを湯がくところから始め、自分の舌で味を調整しながら作る。手間を惜しまないのが信条だ。白和えは炒り胡麻を使うのが普通だが、練り胡麻を使う。高齢者の入れ歯に挟まらないようにという配慮。さらに柿を加え、秋を感じてもらう。
ひとりを思って、作る。食べる人に幸せになってほしいという思いだ。売り上げナンバーワンのボリュームたっぷり弁当は、メンチカツ、目玉焼き、炙りチキン、海老フライ…と主役級がこれでもかと入っている。息子がサッカーの試合に行く弁当に好きなものを詰め込んだときの発想から生まれた。この日はピーナッツご飯をおにぎりにして、早速店頭に出した。「発売まで開発数カ月」という商品ではなく、思いついたらその場で作る。毎日新商品が生まれ、客の反応を見て、改良する。旬のいちじくとクリームチーズ&ナッツの焦がしカラメルは、83歳になる母の喜ぶ顔を思い浮かべて創作した。こうして、5年で売り上げが1.5倍に増えた。
急に思いついて、鮮魚売り場にタイとイサキを求めに走る。兎角縦割りになりがちな組織の壁を取り払い、スーパーの中の食材を自由に使う。そして、各部署に味見をしてもらう。自作は年1000を超え、失敗を恐れない。
職場で買い物を済ませ、夜7時に帰宅。10時間立ち仕事をしていたにもかかわらず、台所に立つ。孫たちに里芋を食べさせようと、シーチキンと明太子を使ったグラタンを作った。日々の料理から着想し、新たな惣菜が生まれる。共働き、独り暮らし、家族で食卓を囲めない人たちの暮らしに惣菜で彩りを与えたい。みんなの台所でありたい、という。
1968年、熊本生まれ。両親が共働きで、料理が好きで、弟や妹のために台所に立った。バレーボールで実業団入りの話があったが、身長が足りずに断念した。高校を卒業して、看護師になったが、1年で退職。20歳で結婚して4人の子どもに恵まれたが、24歳のときに夫が営む建設会社が倒産し、2000万円の借金を残して、夫が逃亡した。子どもたちと死のうかと思った。でも、働くしかない。昼は保険の営業、夜はスナックで働き、持ち前の明るさで乗り切った。彼女を支えたのは料理だった。料理を作って、営業先に差し入れしたり、スナックで振舞った。
35歳のとき、スーパーでパートとして働く。これが人生を変えた。品出し担当だったが、賞味期限切れ寸前の食材を使って料理し、皆に食べてもらったら、スーパー中の評判になった。そして、総菜部の正社員に。衛生面の勉強をした。自己流とマニュアルの間を格闘した。他の社員から鍋を触らせてくれないこともあった。距離感を詰めて、信用してもらおう。「ちょっと作ったので、食べてもらえますか?」。徐々に味方が増えた。部署の垣根も超えた。
お惣菜大賞で、大手スーパーを差し置いて次々に入賞した。福岡のローカルスーパーにすごい惣菜を作る女性がいる…視察が相次ぎ、惣菜目当てでお客が来店した。そして、54歳で部長に抜擢される。パートからの昇進は異例だった。積み重ねてきた経験がレシピに反映された。スーパーの厨房はようやく見つけた自分の居場所だった。梶原は言う。「料理学校を出たわけでもない。家族に食べさせたいものを作っただけ。お客さんたちが美味しいと言ってくれるのが嬉しい。ただ、それだけです」。
惣菜大賞に向けて、丸一日試作する日。福岡糸島の食材を使ったランチプレート。パプリカのムースで苦戦した。切れがない。生クリーム、コンソメを少しずつ足しながら味見を繰り返した。スイーツにしたい。ただ美味しいというのではないものにしたい。あえて味付けをしない選択肢を選ぶ。これを含め合計25品を出品した。全国から1万5千品目が出品され、予選を通過するのは200だ。
梶原は五島列島の店に応援に行った。五島の塩を使った塩パン作りをしながら、大賞の結果が気になった。梶原は言う。「楽しくない。賞が先走ってしまう。美味しい!と喜ぶお客の顔を思い浮かべて走り続けてきた」。何かが変わっていた。コンテストの結果を知らせる携帯が鳴った。入選は優秀賞のランチプレートを含め、9アイテム。最優秀賞は惜しくも逃した。
塩パンは飛ぶように売れた。2時間で完売。翌日用に用意していたパンを急遽、焼きあげて売った。梶原は長年の立ち仕事で膝を痛め、人工骨を入れる手術をしている。そして、言った。「賞よりも近所のおばちゃんの『美味しかった』という言葉が嬉しい」。糸島の食材を使ったラタトゥイユに、レシピにないきのこを入れよう!と発想した。鯛の塩焼きにかけたら美味しいはずと想像しながら。
作っていて楽しいことが、お客様の心に届く。梶原にとってプロフェッショナルとは…つらいこと、悲しいことがあっても、うちの料理を食べて、一瞬でもワクワクしたり、幸せな気分になってもらえば、それがプロフェッショナル。「みんなの台所でありたい」という精神が美味しい惣菜を生むのだろう。


