蜃気楼龍玉「怪談乳房榎」通し口演

蜃気楼龍玉「怪談乳房榎」通し口演に行きました。三遊亭圓朝作・本田久作脚色。

おきせ口説き/重信殺し/中入り/十二社の滝/赤塚村乳房榎

十二社の滝。菱川重信を殺害して、三十日後。磯貝浪江が下男正助を呼び出す。おきせは自分のせいで仏罰によって重信は殺されたのだとひどく気に病んでいるという。それに引き換え、浪江は弔いで嘘の涙を流し、「必ず犯人を探し出し、真与太郎に仇討をさせる」と誓った。本当にふてぶてしい男である。

浪江は正助に仲買の竹六のところに行って話をして来てほしいと頼む。竹六は浪江の重信への弟子入りを世話した男だ。浪江は重信逝去後は柳島のおきせのところに通う理由がなくなってしまった。尚且つ、重信が遺した財産も欲しい。そこでおきせと浪江を夫婦にするよう口を利いてほしいと、正助から竹六に頼んでほしいというのだ。どこまでも身勝手な浪江である。

竹六の口利きで、二人はめでたく夫婦になった。元々不義密通をしていた仲だから、人が羨むような仲の良さだ。そして、間もなく懐妊。おきせは乳が出なくなり、真与太郎に与えることが出来なくなり、腹を空かせている。そこで浪江が考えたのは、正助が自分の故郷に真与太郎を連れて行き、よく乳の出る乳母に育ててもらうという口実で、真与太郎を連れ出し、殺してしまおうという計略だ。

重信殺しのとき同様に、正助を脅し、真与太郎を四谷角筈村の十二社の滝に放り込んで殺してしまえと命じる。報酬として二十両をくれると言うが、正助は奉公人として大恩ある主人の殺害に加担しただけでも心苦しくて仕方ない。だが、浪江の命令に背けば殺されてしまう。言いつけ通り、十二社の滝まで真与太郎を連れて行き、念仏を唱えながら、滝壺の中に落とす。だが、下の地面ではオギャーと泣き叫ぶ声が聞こえる。

下に降りてみると、ぐっすり眠っている真与太郎を抱きかかえた重信の亡霊がいた。必死に謝る正助。重信は「詫びることはない。お前のことは微塵も恨んでいない。わしが死んだことで、命と引き換えに雌龍の右手を描きあげることができた。絵師の冥利に尽きる。不憫なのは真与太郎だ。愚かな父のために不運である。正助、お前が悔い改め、真与太郎を養育し、真与島家を復興して、侍になれるように導いてくれ。浪江は因果の糸で紡いでくれるだろう。もう二度と殺そうと思うなよ」。こう言うと重信は消え、草の上にスヤスヤと眠る真与太郎がいるだけだった。

正助は自分の故郷である練馬赤塚村へ行く。もう実家はない。松月院門前に空き家を見つけた。そこには乳房榎と呼ばれる乳のような甘い露が出る榎の木があり、それを乳に塗ると乳の出がよくなるとか、乳の出来物も治るという噂で人が絶えず、正助は茶店を開き、乳房榎目的で訪れる客で繁盛した。

4年後。ある旅姿の男が現れた。それは竹六だった。おきせの乳に出来物が出来、乳房榎の露を貰い受けるようにと浪江に頼まれたのだった。おきせと浪江の間に生まれた子はお七夜を待たずに死んでしまった。それ以来、おきせの具合が悪いのだという。竹六は「正助さんは真与太郎を拐して出ていった。どこかで野垂れ死にしているだろう」と浪江に聞かされていた。「あそこで元気に遊んでいるのが、真与太郎ですよ」と正助に言われ、驚く。重信先生への恩返しのつもりだと言う正助は「このことは柳島には内緒にしてくれ」と念を押した。

だが、竹六は浪江に乳房榎の露を渡す際に、つい口を滑らせて正助が乳房榎前の茶店を営んでいることを知られてしまう。奥の部屋ではおきせの悲鳴が聞こえる。乳房が腫れ、膿が出来て、大層痛いのだと訴える。早速、乳房榎の露を筆先に湿らせて塗るも、「痛い!」と叫ぶばかり。おきせは「出来物を切って、膿を出してほしい」と願う。浪江は短刀で乳房に刃を入れるが、手元が狂い、五寸ほど切り込んでしまい、血の滲んだ膿が噴き出る。そして、その乳から獣の手のようなものが出てきた。重信の描いた雌龍の右手…。浪江はめった刺しにすると、おきせは息絶えてしまい、跡には影も形もなかった。

重信の怨念か…。浪江は「次は俺か」と覚悟し、真与太郎のいる赤塚村に向かう。「正助!やはりここにいたのか!」と浪江は「二人並べて首討ち落としてやる!」と叫び、刀を上段に構えるが振り下ろせない。何かが手首を掴んでいるよう。そこを真与太郎が「父上の仇、思い知れ!」と言って、浪江の腹を錆び刀で一突き。続いて正助が倒れた浪江をめった討ちにして、殺害。浪江の手首は朱肉の手形が残っていたという…。

真与太郎の仇討はお上に知られることとなり、「五歳にしては感心だ」と、ある殿様が「十五になったら仕官せよ」と声掛けをしてくれ、真与太郎が侍となり、真与島家再興は叶うこととなる。

誰も住まなくなった柳島の屋敷は売りに出されるが、曰く付きという噂のためか、なかなか買い手がつかなかった。5年後に飯島平左衛門が別宅として買い求め、娘お露が住むことになるが、これが「牡丹灯籠」の発端となるという…。最後まで飽きさせない脚色の素晴らしさに感嘆した。