【アナザーストーリーズ】極道の妻たち 強くカッコいい女の時代へ

NHK―BSで「アナザーストーリーズ 極道の妻たち 強くカッコいい女の時代へ」を観ました。映画「極道の妻たち」のシリーズ第1作が公開されたのが1986年、男女雇用機会均等法が施行された年である。以後、10作が製作され、110億円のヒットとなり、“極妻ブーム”と呼ばれた。その製作の裏側を描いた優れたドキュメンタリーだ。
主演の岩下志麻はこの企画の話があったとき、あまり乗り気ではなかったという。家田荘子が著わしたノンフィクション「極道の妻たち」をきっかけに、「仁義なき戦い」などを手掛けた東映のプロデューサー、日下部五朗が「これからは女性を動員しなければ、興行収入は伸びない。アウトローの世界の女性を描こう」と企画した。それまでの東映のヤクザ映画は男性客を相手にしていたからだ。
主演女優がカギを握った。まずヤクザ色とは全く関係のない女優さん、華があって存在感がある女優さん、それに品格も充分なひと。松竹で清純派としてデビューした実力派の岩下に狙いを定めた。渋る岩下を口説くため、監督に五社英雄を起用し、「粋とあだっぽさを出してあげる」という言葉で岩下は決心した。
「女優は結婚したら終り」とも言われていた時代、岩下は26歳で映画監督の篠田正浩と結婚、独立プロダクション表現社を立ち上げ、32歳で長女を出産、従来の女優像を塗替えてきた。そうした自分の自立を極妻に重ねようと考えた。スタッフは全員、「姐さん」と岩下を呼んだ。
岩下の背中には天女の刺青を3時間かけて描いた。宣伝担当はこの岩下の刺青姿のイラストをポスターにしようとして、日刊スポーツの女性記者に独占スクープで記事を書いてもらった。すると、物凄い反響だったが、夫の篠田監督から「妻を脱がしちゃ困る」とクレームが入った。イラストなのに…。
朝日新聞事業所の協力で「女性限定試写会」を企画すると、定員500人のところに8000通の応募があったという。試写会に岩下が現れると、スタンディングオベーションが起きた。男をやっつけるシーンに拍手が起きた。ヒット作となり、続編が次々と作られ、社会現象になった。
極妻で岩下に次ぎ欠かせない女優となったのが、かたせ梨乃だ。コマーシャルやグラビアのモデル中心に活動していたかたせは「この役に出会っていなかったら、今の私はない」と断言する。失敗したら女優をやめないといけないという覚悟で臨んだ。岩下の妹役、大抜擢だった。プロデューサーの日下部は「普通の女優と違って、毒を持っている。これはやくざ好みだ」と判断したのだ。姉と敵対する極道の男を愛してしまう妹役だった。
撮影現場には長い映画の歴史に土足で入ってくるな、どこまでできるんだ、という空気が流れていたという。男性スタッフの厳しい視線が注がれた。それを優しく見守ってくれたのが岩下だった。
語り草になっている、取っ組み合いの姉妹喧嘩のシーン。極道に染まる妹を引き止めようとする姉との真剣勝負の対決は、まさに乱闘、岩下の着物が破れ、髷が取れる迫力だった。かたせの臆せず、鬼気迫る演技で男性スタッフの見る目が変わった。岩下は「今までこんな才能、どこに隠れとったんだって思うくらい、よく頑張ってくれた」。かたせは岩下と並び、極妻の顔となり、女優として大きく飛躍したのだった。
1986年に男女雇用機会均等法が施行され、90年に総合職女性社員として入社した小柳憲子は撮影現場に配属され、進行助手を勤めた。均等法は施行されたが、90年代は「男女同じように」というのが幻想だった時代だったという。募集・採用・配置・昇進は均等に扱うことが事業主の「努力義務」とされていただけで、実態は何ら変わらず、建前だけだけだという不満がどの業界の女性にはあった。
93年公開の第6作で、小柳は「女極道、女組長のカラー」を強めたという。第1作のコピーは「愛した男が、極道だった。」、しかし第6作のコピーは「あんたら、覚悟しいや。日本中を火だるまにする女たち。」。岩下の凄みのある啖呵は男性中心の社会への不満に聞こえ、回を追うごとに女組長が男性に指示を出し、リードする場面が増えていく。不満を吹き飛ばすように、強くなっていく姿を岩下は「劇画タッチに、オーバーに」演じることで、女性ファンの期待に応えた。
強さとカッコ良さ。小柳は「女性が男性を顎で使う」ようなアイデアを色々と考えたという。その端緒な例が第7作。岩下が葬儀の場で僧侶の格好を脱ぎ捨てると、和服になり、マシンガンをぶっ放し、悪い男をやっつけるシーンだ。女性の声を代弁した。「どこまで怒らす気ぃや」。
男女雇用機会均等法は97年に改正され、それまで努力義務となっていたものが、「女性差別は禁止」と明記された。そして、「極道の妻たち」も98年の第10作「決着(けじめ)」でシリーズを終える。
僕が退職した2020年、僕の知る限り、男女の差別がない職場環境になっていた。職場の課題は「働き方改革」や「コンプライアンス」といったテーマに移行していったように思う。男らしさとか、女らしさといった言葉はジェンダーレス社会においてはもはやタブー、死語になっている。
その上で、男女の感情の機微などをどう描くのか。時代は新しい表現の課題を突きつけられているように思う。

