五月文楽公演 通し狂言「生写朝顔話」

五月文楽公演第一部と第二部を観ました。
第一部 「二人禿」/「生写朝顔話」宇治川螢狩の段/真葛が原茶店の段/岡崎隠れ家の段/明石浦船別れの段/弓之助屋敷の段
第二部 「生写朝顔話」薬売りの段/浜松小屋の段/嶋田宿笑い薬の段/宿屋の段/大井川の段
通し狂言「生写朝顔話」。大内家家来・駒沢了庵の甥の宮城阿曾次郎と岸戸家家老・秋月弓之助の娘の深雪のすれ違う悲恋の物語だ。阿曾次郎が扇に書いて深雪に渡した「露の干ぬ間の朝顔を、照らす日影のつれなきに、哀れひとむら雨のはらはらと降れかし」が重要な鍵になっている。
二人は宇治川の螢狩りで出会った。阿曾次郎が書いた和歌の一首が書かれた短冊が深雪の乗っていた船に舞い込み、互いに見惚れたという運命的な出会いである。二人は盃を取り交わし、いい雰囲気になったのだが…。阿曾次郎の伯父の了庵から急ぎの書状が届き、出立しなければならなくなった。阿曾次郎は扇に書いた朝顔の歌を自分と思い、再会の日を待つようにと言って去って行く。
実は阿曾次郎は秋月家に縁付く手配になっていて、医者の立花桂庵が阿曾次郎の人柄などを調べた上で、引き合わせることになっていた。ところが桂庵は金に汚い男で、深雪に惚れている同業の萩の祐仙から三十両を貰って、祐仙を偽の阿曾次郎に仕立てて、秋月家に婿入りさせることにした。
ところが秋月家を桂庵と訪れた祐仙が弓之助夫婦と対面すると、質疑応答でとんでもないボロを出してしまい、祐仙の化けの皮が剥がれてしまい逃げ出す始末。深雪も婿候補が「あの阿曾次郎」だと知ったときは驚き喜んだが、両親から残念な結果に終わったことを聞き、形見の扇を抱きしめながら、すっかり落胆してしまった。
さらに岸戸家で騒動が起きているので帰国してほしいと使者がやって来て、屋敷は慌ただしくなる。そこへ本物の阿曾次郎が帰国の暇乞いに訪れたが、「さっきの偽者」と間違えられ、追い返されてしまうという…。これが一つ目のすれ違いだ。
そして明石浦。弓之助ら秋月家一行も、阿曾次郎もそれぞれに帰国するために船に乗っていた。大船から「あの朝顔の歌」が聞こえてくるので、阿曾次郎が見上げると、そこには深雪が!深雪も気付き、阿曾次郎の船に乗り移り、「一緒になれないなら身を投げる覚悟だ」と言うと、阿曾次郎は深雪を連れて行く決心をする。深雪が両親への書置を残すために一旦、大船に戻ると、風が吹き始めて船が出航してしまう…。またもや二人は離れ離れに。深雪は必死な思いで、遠ざかる阿曾次郎の船に形見の扇を投げ込んだ。これが二つ目のすれ違いだ。
国へ着いた秋月家。弓之助が主君の勧めで大内家の家臣・駒沢次郎左衛門という若侍を深雪の婿に迎えることが決まったと話す。これを聞いた深雪は「主君の仲介の縁談」を断ることができないと知り、阿曾次郎を諦めることができないため、死んで一緒になること願い、書置を残して家出してしまう…。実は阿曾次郎は伯父の駒沢了庵の養子に入り、駒沢次郎左衛門を名乗ったのだった!ああ、何ということか。これが三つ目のすれ違いだ。
第二部では戎屋徳右衛門という人物がキーマンとなる。家出した深雪は山賊に捕らえられ、遊女として売られてしまう。色々あって逃げ出した深雪はとうとう悲しさのあまり目を泣き潰して盲目になり、浜松の街道筋で朝顔と名乗って三味線弾きとして貧しい暮らしをしていた。それを嶋田宿の宿屋の主人・戎屋徳右衛門がこの朝顔を哀れに思い、自分の店に引き取った。
戎屋には大内家の家臣の駒沢次郎左衛門と岩代多喜太が逗留している。そこに医者の萩の祐仙も宿泊していた。岩代は実は大内家の転覆を企んだ家老の一味で、駒沢が邪魔だった。そこで祐仙と共謀し、茶に毒薬を混ぜて駒沢を殺害する計画を立てる。そして、土瓶の中に毒薬を入れる。
だが、この企みを立ち聞きしていた徳右衛門が咄嗟の機転で、密かに土瓶を取り替え、浜松城下で立花桂庵から買い求めた笑い薬を入れる。岩代が駒沢に茶を勧め、祐仙が例の湯で点てる茶を飲ましようとする。そこへ徳右衛門が現れ、毒見をした上でなければと待ったをかける。祐仙は事前に解毒の薬を飲んでいたので、自分は大丈夫だと思い、茶を飲み干すと…。取り替えられていた笑い薬のために祐仙は笑いが止まらなくなってしまい、作戦は失敗した。
戎屋の座敷の衝立に「朝顔の歌」が書かれていることに、駒沢次郎左衛門は気づく。このことを徳右衛門に尋ねると、朝顔を呼ばれる盲目の女性が宿泊客を相手にその歌を歌って暮らしているという。もしや、その朝顔こそ深雪ではないか?
朝顔を呼び寄せると、果たして深雪だった。だが深雪は恋い焦がれる阿曾次郎が目の前にいるとも知らず、琴を弾き、「朝顔の歌」を唄う。その歌や身の上話を聞いて、駒沢は涙を零す。だが、この後、朝顔は帰っていった。
駒沢は例の扇に何かを書き付けると、多額の金子と薬を徳右衛門に託す。その薬は甲子の年に生まれた男の生き血とともに飲めば、どんな眼病でも治るというものだった。駒沢が出立すると、徳右衛門は預かった品々を朝顔に渡し、扇に書かれている文字を読み上げた。「宮城阿曾次郎こと駒沢次郎左衛門」という署名。それを聞いて驚いた朝顔は徳右衛門の制止を振り切り、駒沢の跡を追う。
深雪は大井川に辿り着いたが、駒沢一行は川を渡った後だった。その上、大雨のために以降は川止めとなってしまった。タッチの差で恋人とまたもすれ違いになってしまった深雪は自分の不運を嘆き、川に身投げしようとする。だが、それを止めたのは秋月家の奴・関助と徳右衛門だった。
深雪の乳母だった浅香は「浜松小屋の段」で人買いの輪抜吉兵衛から深雪を助けるために、自らの命を懸けて吉兵衛を討ち果たし、落命した。そのときに、浅香の父親・古部三郎兵衛が嶋田宿にいるから頼れ、と言って守り刀を渡していた。実は戎屋徳右衛門こそ古部三郎兵衛であり、かつて深雪の父の弓之助に命を救われたと言い、自分は甲子の年の生まれだとから駒沢の渡した薬を自らの生き血とともに飲めと、守り刀で腹を切った。深雪が服薬すると、ミラクルが起きた!たちまち目が見えるようになったのだ。徳右衛門はそれを見届け、息絶える…。
この後、深雪は関助とともに東海道を上り、ついに大坂で阿曾次郎こと駒沢次郎左衛門と再会を果たして、めでたく婚礼を挙げたという。ハッピーエンドで良かった、良かった。実に波瀾万丈の恋愛物語、面白かった!


