いろはに講談会 神田あおい「越後伝吉 植木織部の夢占い」、そしてザ・桃月庵白酒「付き馬」「お直し」

いろはに講談会に行きました。
「五條橋出会い」宝井優星/「番町皿屋敷 青山主膳屋敷替え」宝井琴凌/「万両婿」宝井琴調/中入り/「越後伝吉 植木織部の夢占い」神田あおい
あおい先生の「越後伝吉」。越後高田の宝田村の名主、井上伝左衛門には二人の娘がいた。長女のおはやは何人もの婿候補を断り、博奕打ちの善九郎と一緒になり、家の財産を持ち逃げして逐電してしまった。次女のおよしは出来の良い娘で、婿を取り、伝吉という息子を生んだが、夫婦ともに早逝して、伝吉だけが残った。伝吉が二十六歳のとき、江戸へ出る用事があり、熊谷宿の木賃宿の泊まると、そこには伯母のおはやとその娘おうめが働いていて、出会う。
これがきっかけで、伝吉はおうめを嫁に貰い、井上家再興を目指した。伝吉は単身で江戸へ出て、三浦屋四郎左衛門に奉公し、番頭にまでなり、宝田村に戻る。しかし、おはやは兵左衛門という男、おうめはその息子の正二郎と深い仲になっていた。性悪な母子は井上家の金を盗む。それを岩国与兵衛とその娘おせんが助け、伝吉はおせんと結婚し、名主となった。
伝吉は毎晩悪夢にうなされる。それも同じ夢を毎日見るという。おせんは心配し、江戸から出てきた夢占いができる植木織部のところを訪ねるように伝吉に言う。織部は険難除けのお守りを伝吉に渡し、近々祈祷に行くと言ってくれた。そして、今晩は村に帰らずに泊まっていけと言う。だが、伝吉はおせんが心配するといけないと思い、その誘いを固辞し、宝田村へ向かう。
兵左衛門は貧しくなり、息子の正二郎と嫁のおうめに村を出て、江戸に向かうように言う。30両の入った財布を渡した。二人は泉河内で宿泊。ところが、正二郎が財布を忘れたことに気づいた兵左衛門はこれを届けようと泉河内に向かう。その途中で、男と女が争う声が聞こえた。男が刃物で女を刺すところを見る。兵左衛門はその女がおうめだと思い込み、その男を斬り殺した。
だが、女はおうめではなかった。ちょうどそのとき、村へ帰ろうと歩いていた伝吉が通り掛かり、男女の遺体を発見し、走り去った。ここで兵左衛門が思い付く。正二郎とおうめに着物を着替えさせ、脱いだ着物を男女の遺体に着せ、首を刎ねた。そして、首は川に捨てる。ここに偽の正二郎とおうめの首のない遺体が横たわることになる。この殺害の罪を伝吉に被せようと考えたのだ。
兵左衛門は伝吉の家に行き、伝吉が脱いだ草履に殺害現場の血をつける。さらに兵左衛門の血がついた手を雨戸のところに手形として残した。これで「伝吉が正二郎とおうめを殺害した」証拠が揃ったと、翌日に代官所の黒崎半衛門のところに訴え出る。黒崎は兵左衛門の娘婿だ。
伝吉は代官所に呼び出され、罪を問われるが、当然「知らない」と答える。黒崎は伝吉には正二郎とおうめに対し恨みもない、また兵左衛門の家の井戸のところに血潮で染まった手拭いがある、雨戸の血の手形は伝吉の掌より小さく、ちょうど兵左衛門の掌に合う等の理由から、兵左衛門が怪しいと思う。そして、問い詰めた結果、兵左衛門はすべてを白状した。
兵左衛門を討ち首にすることが決まったが、黒崎の妻が「父を助けてくれ」と懇願し、息子も「おじいちゃんが可哀想」と泣くので、思い切れない。黒崎は伝吉に罪を被せることにして、連日拷問を続け、ついに伝吉は「私が殺しました」と嘘の自白をしてしまう。泉河内で磔、処刑が決まった。
女房のおせんは居たたまれなくなったのだろう、家を出た。岩国屋与兵衛の庭に行き倒れの女乞食が発見される。それは、おせんだった。清滝の不動様に二十一日の願掛けをしたら、不動様が現れ、「命ばかりは助けてやろう。村に偉い役人が来るので、おすがりしなさい」とお告げがあったという。
果たして、伝吉処刑の前日に柏原宿に安藤対馬守様が来るという情報が入る。与兵衛はおせんに命懸けの御駕籠訴をするように勧める。「差し越し願いは相ならぬ」という周囲の家来に踏んだり蹴ったりされながらも、おせんは不動様に参詣する対馬守に直訴し、願書を読んでもらう。対馬守が「まもなくではないか。すぐに行くのじゃ」。処刑寸前の伝吉は寸でのところで助かる。そして、身柄は江戸送りとなって、大岡越前守の裁きを受けることになった…。
50分の長講。面白かった。今回から始まった「いろはに講談会」は講談協会の隔月の定席として、「長講」を売りにして開催されるという。今後も楽しみである。
「ザ・桃月庵白酒」に行きました。「転失気」「付き馬」「松曳き」「お直し」の四席。
「付き馬」。男が若い衆に勘定を拵えるからと言って店から連れ出し、パーパー喋り倒して、仲見世を通って雷門まで相手を煙に巻くテクニックが見事である。湯屋、湯豆腐でお銚子15本、餃子屋、正直ビアホール、花やしき、人面魚の魚拓、機械仕掛けの象の乗り物、日本のナイチンゲール瓜生岩子の銅像、鳩の餌売り、仁王様、おっぱいプリン、梅林堂の紅梅焼き、人形焼きは亀屋か木村屋か、築地廻りのボギー車…。若い衆に何も言わせないで、蘊蓄交えて圧倒する男の喋り、只者ではない。
田原町の「おじさん」に勘定を拵えてもらう件。あの男の兄貴が腫れの病で死んだ、図抜け大一番小判型という早桶を拵えてほしいと話をつけて、サッと男が姿を消してからの若い衆と早桶屋主人の噛み合っているようで噛み合っていないやりとりが愉しい。「朝早くにすみません」「いえ、商売ですから。この度はとんだことで」「結構あることですから」「長かったんですか」「昨夜一晩だけ」「急に来たというやつだ」「はい、ふいにいらした」「驚いたでしょう」「いや、来るなと思いました」「虫の知らせというやつだ。だいぶ腫れたそうで」「惚れたか、腫れたか…いい塩梅でした」「そういうときに朝方、急に逝っちゃたりする」「そうですね、イッちゃったんでしょうね」「通夜の具合は」「芸者幇間あげて、どんちゃん騒ぎ」「かえってその方が仏さんも喜ぶかもね」「仏さん、大喜びで。かっぽれ踊っていました」。騙された者同士の絶妙な掛け合いに大いに笑った。
「お直し」。吉原の女郎と若い衆が深い仲になるのは御法度。それを親許身請けということで証文を巻いてあげ、以降も二人とも店で働けるようにしてあげる旦那の温情。それに応えようと女房の方は仕事に精を出すが、亭主の方はちょっと懐が温かくなると、千住に居続けしたり、果ては博奕の沼にはまったりして無断欠勤、借金の山。元の木阿弥で首が回らなくなる。男は本当にだらしないなあと思う。
その点、女は強い。亭主が蹴転(けころ)の話を持ってくると、女房は「私が女郎をやって何とも思わないの?」と訊き、「何とも思わないと言ってくれないと困るんだ」と、線香一本いくらで稼ぐ商売への覚悟を決めるところ、流石だ。客を繋ぎ止めるために、色めいたことを言う。それにいちいち苛ついていたら商売が成り立たないと亭主に諭すくらいの強さがある。
酔っ払い客相手に手練手管。酔ってらっしゃいよ。ほら、掴まえた。冷たい手をしているね。待っていたんだよ。どこで浮気していたの。わたし、岡惚れしちゃった。所帯を持ちたいね。でも、おかみさんがいるんだろう?間夫?いないよ。好きな男…目の前にいるじゃないか。(身請けの身代金は)40両なの。一緒になってくれるの?こんな嬉しいことはないよ。浮気しちゃ嫌よ。たまには喧嘩もしたいね。殴られても痛くない。殴っておくれ。
これを聞いた亭主は本気にしてしまう。「あいつと一緒になるのか?馬鹿馬鹿しい。よすよ!」。女房が返す。「私もよすよ!誰のせいでこんなことしていると思っているの?こんなに白粉がボロボロ落ちて…みんな、お前さんが悪いんじゃないか!」。亭主は「あんまり芝居が上手いから…」。
亭主は女房に頭を下げて、「この通り、勘弁してくれ。すまない。心を入れ替える。やり直そう。もう、焼き餅は妬かない」。これで夫婦は仲直りをして、若い衆と女郎だった、あの頃に鍋焼きうどんを二人でつついたことを思い出す。蹴転という最下層に落ちぶれてしまった男女の情愛を白酒師匠は臭くなく、さりげなく表現していたのが良かった。

