立川笑二真打ちトライアル「鉄拐」「富久」「御神酒徳利」「不動坊」

「立川笑二真打ちトライアル~笑二十八番」五日目に行きました。「粗忽の釘」「鉄拐」「富久」の三席。立川談笑師匠は「紙入れ」だった。

「鉄拐」は立川流ならではのネタ。俗に染まることを嫌っていた仙人の鉄拐が上海で売れ出して金の亡者と化して汚らわしくなっていく。それを聞いた弟弟子の張果老が桃源郷からやって来て、意見をして鉄拐の目を覚まさせようとするが…という構図が面白い。

上海屋の旦那の命を受けて、暮れの宴会の余興の目玉になる芸人を探す手代の金兵衛は中国全土を歩き回っているうちに、道に迷って桃源郷へ。乞食のような風体の老人と出会うが、「お前のような俗にまみれた汚れた人間の来るところではない」と追い返されそうになるが、金兵衛はその老人が仙人の鉄拐だと知って、仙術を見せてほしいと頼みこむ。最初は渋っていた鉄拐だが承知して、「一身分体の術」、すなわち己の中からもう一人の己が出てくるという術を見せる。

これは宴会の余興の目玉になる!と踏んだ金兵衛は金には転ばない鉄拐に「俗な人間たちに仙術で“人の道”を説いてほしい」と理屈をこねて、鉄拐を上海に同行させ、余興で一身分体の術を披露させ、宴会場は大歓声に包まれて大成功。すると、我が町でもやってほしいと引く手あまたとなり、人気が急上昇する。

ついには評判を聞きつけた寄席の席亭の目に止まり、トリで出てほしいと説得し、出演することに。鉄拐も受ける喜びを覚え、千秋楽の打ち上げでは「前座!酒、持って来い!椎の実?そんなもの、食えるか!肉、持って来い!いい女を連れて来い!」。俗世間を嫌っていたことなど忘れたかのように俗に染まる。愛人を囲う、金をもらって弟子を取る、それでも連日大入り大盛況。やがて実入りの良い座敷の仕事の声が掛かり、寄席を抜くようになる。

困った寄席関係者は桃源郷に行って、違う仙人を探してスカウトしようと出向く。すると、鉄拐の弟弟子だという張果老が瓢箪から馬を出す仙術を持っていることが判り、上海に来てくれないかと頼む。すっかり俗に染まってしまった兄弟子に意見したいと思い、張果老はこれを引き受け、あっという間に人気者になった。

これに危機感を抱いた鉄拐は密かに張果老の寝ているところに忍びこみ、瓢箪から馬を吸い込もうとすると…張果老に見つかってしまう。「私は兄サンに目を覚ましてほしくて、嫌々寄席に出ていんです。もう一度、桃源郷に帰って修行をやり直して、人の道を説ける仙人に戻ってください」。鉄拐は素直に意見を聞き、桃源郷に戻ると…張果老いわく「やっといなくなった。これからは俺の時代だ!」。俗世間を否定し、仙人のように無欲に生きることが本当の「人の道」なのか。人生論として面白い。

「富久」。久保町の旦那をしくじった幇間の久蔵が火事が起きることで運勢が上昇したかと思ったら、喜びも束の間、運勢が降下してしまう。かと思ったら、また上昇し、また降下する。ジェットコースターのように運命に翻弄される久蔵の喜怒哀楽を描き、最終的にはハッピーエンドになって胸をなでおろす。談笑師匠の改作をベースにしているとのことだが、そこに笑二さんのしっかりとした話芸を感じた。

深川安針町の自宅から久保町の旦那のところまで火事見舞いに駆け付けた久蔵は出入りが許される。見舞い客の受付を頼まれた久蔵だが、御本家の旦那が訪れたときに「この芸人を藤兵衛(久保町の旦那)は可愛がっているのか。お前も暖簾分けして出世したな。私もこの久蔵さんを座敷に呼んでもいいかい」と言われ、久蔵は調子に乗って、「旦那の家も火事になれば、真っ先に駆け付けますよ」と洒落にならない発言をしてしまった。久保町の旦那は烈火の如く怒り、「お前は生涯、出入り止めだ!」と追い出されてしまう。折角、詫びが叶ったのに…。

途方に暮れていると、今度は深川で火事だという。慌てて家に向かうと、自宅は燃えていた。同じ長屋の寅さんによれば、久蔵のところに火事場泥棒が入って、家財道具一式持ち出して行ったという…。焼けて困るものなどない、かえってすっきりしたと思ったが、神棚には烏森の旦那から一分で買った富札を置いてあった。

とぼとぼと歩いていると、鈴ヶ森神社。富の抽籤当日だ。自分の買った富札は「鶴の千五百番」。手元にないから、「どうぞ、当たらないでくれ」と祈った。だが、そういうときこそ当たってしまう。「当たった!畜生!」と泣いて悔しがっている久蔵に声を掛けたのが烏森の旦那。理由を説明すると、「火事で焼けたのであれば、町役人である私が確かに売ったと言えば、千両は貰える」と言う。喜ぶ久蔵。だが、それが火事で焼けたのではなく、泥棒に盗まれたということであれば話は違ってくる。他から富札を持っている人が現れる可能性があるからだ。一度喜んだ久蔵だったが、すぐにガックリと肩を落としてしまう。「いらねえや!」。

そこに久保町伊勢屋の手代がやって来る。「久蔵を再び出入り止めにしたことで、旦那が御本家の旦那から大目玉を食らった」。それは芸人を一人殺すことになるんだと叱られていたときに、深川安針町が火事だという報せが入り、大慌てで奉公人一同が久蔵の家に駆け付け、家財道具一式を大八車に載せて運び出したという…。久蔵は急いで久保町の旦那のところへ行くと、神棚の中に富札が!「あった!あった!」。聴き手である僕も、久蔵の気持ちになって、大いに喜んだ。

「立川笑二真打ちトライアル~笑二十八番」千秋楽に行きました。「百川」「御神酒徳利」「不動坊」の三席。その後、立川談笑師匠の講評があり、笑二さんの真打が内定した。

「御神酒徳利」。奉公人からは「駄目番頭」と陰口を叩かれている三番番頭の善六になんとか出世の糸口を掴ませたいと願う女房の機転、度胸、覚悟が善六をして「かっこいい!」と言わしめるくらいにかっこいいところが素晴らしい。

算盤占いの猿真似もできない善六に対し、女房の父親が易者だったから、女房に易者先生の幽霊が降りる術を書いた巻物が見つかったということにして、善六の粗忽で紛失騒ぎとなった御神酒徳利が水甕から見つかる芝居を打って、見事に善六の手柄にして、旦那の覚えが良くなるという。内助の功である。

続く神奈川宿新羽屋の巾着盗難事件も、鴻池善右衛門の娘の病平癒も、最終的には幸運に恵まれて上手くいくわけだが、それも同伴した善六女房が肚を括って引き受けたからこそ舞い込んだわけで、善六は女房に頭が上がらないという図式だが、女房は少しも偉ぶるところがなく、亭主を立てるところに、夫婦円満を見ることができる。笑二さんのアレンジの勝利である。

「不動坊」。お滝さんを嫁に迎えることになった利吉が湯屋に行って、湯船の中で夫婦喧嘩の妄想をするところが可愛い。「金がすべての世の中。借金を立て替えてくれるから、仕方なく嫁に来るんでしょう?借金さえ片付けば、誰でも良かったんでしょう?」「そんなことはありません。私はお前さんのことが好きなんです!」。利吉と同じ長屋に住む独身三人の悪口を言うところも可笑しい。万さんは嘘つき、鉄さんは色が黒いはよくあるパターンだが、徳さんは「何か、無理。顔がただただ気持ち悪い」って!笑二さんのセンスある言葉のチョイスが好きだ。

婚礼の晩に不動坊の幽霊を出す作戦で三人は噺家の前座を使って利吉を怖がらせようとするが…。利吉は幽霊に対し、「言わせてもらう!礼は言われても、文句は言われる筋合いはない!お滝さんは今夜、来なかったんだよ!一度は好きになった人、四十九日とは言わないまでも、せめて初七日までは待ってくれだと。不動坊が忘れられないとよ。気分が悪い…俺は不動坊を忘れるくらいに、お滝さんを幸せにすることができるかな?」。利吉の純朴さがよく出ていて、笑二さんらしいなあと感心した。

談笑師匠の講評。立川流の真打の基準である百席は優に超えている。ただ、集客面で見ると、「おや?」と思うところもある。粗を探せばないわけじゃない。でも、これでいい、文句がないという域に達するには長い道のりがある。そこまで待つと機を逸しかねない。角を矯めて牛を殺す、という言葉もある。笑二は技量もセンスも良いものを持っている。「棹をさす」ということは師匠としてしたくない。(「棹をさす」の本来の意味は船をスムーズに進める勢いをつけるという意味だが、最近はその逆の「勢いを失わせる。邪魔をする」という意味で使う人が増えていて、辞書に両方の意味が載っている。談笑師匠は後者の意味で使ったのだろう)真打として認めます。

笑二さんがこれまで人とコミュニケーションを取るのが苦手で、披露パーティーを開くにもお客様の住所をほとんど知らないくらいと不安を口にすると、談笑師匠は「苦手というのも個性」と言って、そういうマーケティングを上手にサポートしてくれる人を探すという方法もあると温かい言葉を掛けていたのも印象的だった。

また、昇進披露は来年秋くらいを考えていて、名前も改名する意向を示した。まずは、真打内定おめでとうございます!